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「ちっ……ちげーよっ! そんなハズ……ッ!」
 全力で否定する千歳丸だが、全身から滲み出すこゆずへの好意が隠し切れていない。それを小天狗は更に突付いてからかう。
「この娘っ子とはもう手くらい繋いだか? 接吻は? なんと、まだか! 意気地のない小僧じゃのぅ!」
「馬鹿! そんなじゃねぇって! 俺はンなモン興味ね……」
「……千歳丸さんの好意は分かりやすいですからね」
 こゆずは袴の裾を押さえ、嘆息しながらポツリと洩らす。
「わたしは世間知らずですけれど、そこまで愚鈍ではありませんもの」
「お嬢! かっ、からかうのはやめろって、何度も何度も……」
「好意をお持ちになるのは構いませんよ。ですがわたしは生涯姫巫女様にお仕えすると誓っていますから、申し訳ありませんが千歳丸さんの個人的な想いにお応えする意思はありません」
「はうっ!」
 やんわりきっぱりと “オコトワリ” され、千歳丸は撃沈する。小天狗は手を叩いて愉快そうに笑った。
「おお、見事な失恋じゃのぅ! 小僧に魅力を感じぬのだと。なるほど小僧の一人相撲かや。惚ったの腫れたのと、ニンゲンは面白いのぅ!」
「うるせぇ! その口、今すぐ黙らせてやる!」
 千歳丸は羞恥と照れ隠しのため、自棄っぱちに叫び、小天狗に向かって拳を振り下ろした。しかし小天狗はその攻撃を予測していたかのように、高下駄を鳴らして飛びしさる。
「おお、追いかけっこ再開じゃな! よぅし、もう一丁遊んでやるわい! 来い、小僧!」
「くっそぉーっ!」
 千歳丸が木の幹に食い込ませていた鉈を引き抜いた。
「ふぅ……千歳丸さんにお任せしていては、一向に終わりそうにありませんね。わたしも本腰、入れますか」
 こゆずは二人の真剣な茶番を眺めつつ立ち上がり、袴に付いた土をポンポンと両手ではたき落とす。しゃらんと鳴らした錫杖をその場に置き、こゆずの瞳はじっと小天狗を捕らえた。

更新日:2013-02-28 17:51:07

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