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小説

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【あまりに単純な──】

「だはぁっ!」
 千歳丸の腰掛けていた石が崩れて転がり、彼は派手に転倒した。こゆずは慌てて彼の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか、千歳丸さん?」
「痛ってぇ……頭打った……」
 後頭部を擦りながら千歳丸は立ち上がる。手を差し伸べようとしたこゆずは、彼の腰掛けていた石に違和感を覚え、傍にしゃがみ込んだ。
「……千歳丸さん」
「ん?」
 こゆずはすっくと立ち上がり、力の限り最大の遠心力を付けて、彼の頭を錫杖で殴り飛ばした。転倒によって打ち付けた箇所と同じ場所を殴打され、千歳丸は再び地面に倒れ伏す。
「な、何すんだよお嬢!」
 めげずにガバッと顔を上げるが、こゆずは容赦なく千歳丸の脳天に錫杖を叩き付けた。千歳丸、再び顔面を地に埋め込まれる。
「それはこちらのせりふです! あなたはなんて大変な事をしてしまったのですか!」
 こゆずは地面を踏み鳴らし、足元に転がる石を指差した。
 元々は数個の石を積み上げていたものなのだろう。両手でなら持ち上げられそうな程の大きさの石が数個、崩れて転がっている。そして一番大きな石には、ノミで削ったような痕が残っていた。
「……なんか……字か? 読めねぇけど。お嬢これ、何か意味あるのか?」
「大有りですよ。あなたが腰掛けていたそれは、忌生物を封じていた置石です。この石で封じ込める事によって、忌生物が悪さをできないように大地に封じていたのです。それを壊してしまったのですから、間違いなく悪……」
 こゆずの言葉が言い終わらない内に、ねっとりとした風が二人を包んだ。
「なんだ?」
「……やはり。忌生物が解かれてしまいました」
 やれやれといった様子で、こゆずは嘆息した。
 忌生物といった異形のモノと縁遠い生活をしていたために、それらに対して鈍感であると分かっているが、千歳丸の迂闊さは自分の仕事を見事に増やしてくれている。しかも彼と行動を共にしていたこの数日で、それにすっかり慣れてしまった自分が少々恨めしくもある。
「わたしが封印をかけ直しますから、千歳丸さんは忌生物の注意を引いておいてください」
 こゆずは袂から人の形に切り抜いた紙人形を取り出し、念を込め始める。
「注意ったって……そのバケモノはどこにいるんだ?」
 大股で周囲を歩き出す千歳丸。適当に辺りを見回すが、それらしい忌生物は見当たらない。それどころか野生動物一匹見当たらないのだ。
「お嬢の勘違いじゃないのか? この辺にゃ誰も……」
「ふぎゃっ!」
 千歳丸の足元で子供の声がした。ぎょっとして自分が今、不注意で蹴飛ばしてしまったものを見、千歳丸は首を傾げる。今まで全く “それ” に気付かなかったのだ。
「……チビ。お前いつからそこにいたんだ?」
 白髪の髪に小さな頭巾を乗せ、一枚歯の高下駄を履いた、妙に小柄な子供だ。その背にはカラスを連想させる黒い羽根が申し訳程度にくっ付いている。翼、という表現をする事も躊躇われるほどの、小振りな羽根だった。
 白髪の幼子は黒目がちの大きな目をつり上げ、千歳丸を睨み付けた。
「儂を解き放った事に褒美をやろうかと思うておったが、ろくに前も見ずに儂を蹴り飛ばすとはいい度胸だの! 小僧!」
 幼子らしい甲高い声ではあるが、言葉遣いは妙に年寄り臭く、態度も居丈高だ。
「はぁ? 小僧って俺の事かよ? てめぇの方がガキだろ」
 千歳丸は腰に手を当てて白髪の幼子を見下ろす。
「ええい! くそ偉そうに儂を見下ろすでない! 人間風情が! 平伏せい!」
「意味分かんね。おい、お嬢。忌生物なんかいねぇぞ。変なガキならいたけど」
 こゆずは呪術につかう紙人形を手にしたまま、困惑したように唇へ指先を当てた。
「ええと……その子、天狗の子です。忌生物ですよ。たぶん千歳丸さんが壊した封印の」
「は? 誰が?」
 千歳丸は間抜け面で問い返す。
「ほう。そっちの娘っ子は儂の偉大さを分かっておるようじゃな。そなたの見立て通り、儂は偉大な天狗様じゃ」
 白髪の幼子──小天狗はふふんと鼻を鳴らす。
「まだ子供なのに封じられていたなんて、随分悪さが過ぎたのですね」

更新日:2013-02-28 17:47:42