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トランプ、甘い、テレビ

 スペードの7とダイヤの7をめくって、ようやく私は口火を切った。
「先輩、二人で神経衰弱はやっぱり無理があると思うんです」
「そうかなあ」
「だってもう私ばっか5回もめくってます」
「ずっと俺のターン! ってことか」
「なんで二人で延々、朝から晩までトランプなんですか……」
 私は机に突っ伏した。先輩の方はというと、神経衰弱そのものには特に未練も無いらしく、一人でトランプタワーなんぞをやっている。ムカつく。
「ぜいたく言うなよ、部室にある娯楽用品なんてトランプくらいなんだから」
「テレビ……」
「映らないよ、こんな時に」
 昨日まで臨時ニュースが騒いでいたテレビ画面も、いつしかカラフルな静止画に変わっていた。深夜でも最近じゃ滅多にお目にかかれないような、例のアレだ。
「大体にしてさ、神経衰弱がすぐつまんなくなるのは俺のせいじゃない」
「何故ですか」
「キミの記憶力が異常なせいだ」
 ああ、そうですか。私は頭を動かし、窓の外を見た。何の変哲もない、灰色の空だ。
「先輩」
「なに」
「お腹が空きました、甘いものを下さい」
「溶けたチョコしかないよ」
「死んだ方がましです」
 先輩は少しだけ手を止め、すぐにまたトランプを積む作業に戻った。ムカついたので机を揺らした。タワーはあっけなく崩れた。
「先輩」
「なに」
「どうして私はここにいるのでしょう」
 答えはない。
「どうして生きているのでしょう」
「どうして死んでないのでしょう」

「人類は昨日、滅亡したというのに」

更新日:2013-02-17 22:45:36

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