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旧校舎のディアボロス 第6話

『お…』

目覚ましをすぐさま止めた。
アレから……あの変態の顎にいい感じの一撃を入れた後、誰かが公園に来た。
変態の意識がその誰かに向いた隙に、その誰かには悪いけど速攻で逃げ出して家に帰ってきた。
変態が話していた相手の声に聞き覚えがあるような気がしたけど、それ以前に命の危機だったから許してほしい。
自分の部屋に戻った瞬間、今更のように身体が震えた。
それからは、部屋に閉じこもってずっと起きていた。
眠ったら、あの変態がまた襲ってきそうな気がしたから。

「朝か……」

締め切ったカーテンを開けると、日が昇っていて忌々しい陽光がさんさんと降り注いでる。

「学校に行かなきゃダメだよな……」

出来ればこのまま自分の部屋に引きこもって居たいけど、学校に行かないと両親が怒るだろうし、どの道ずっと引きこもり続けてるわけにもいかない。
覚悟を決めるしかないか……

「おはよう母さん」
「イッセー、昨日はどうしたの? 買い物に行ったのに何も持ってないし、帰ってくるなり部屋に閉じこもるし」
「ちょっとね」
「そう、それとお客さんよ。客間で待ってもらってるから……」
「お客さん?」

朝から俺に会いに来る客?
……まさか、昨日の変態じゃないよな?
いや、ありえるぞ。あの変態、黙っていればただのスーツを着た男だし、黒い翼も隠せるらしいし。

「そ、そう。俺、トイレしてから行くから」
「早くしなさいよ? あんまりお客さんを待たせると悪いから」
「ああ、わかってるよ」

やばいやばいやばい!
どうにかして逃げないと……下手すると両親を人質に取られる可能性もある。
トイレに行くフリをして、玄関から靴を回収。
二階の屋根から塀に飛び移って、家から脱出した。
くそ、安全な場所はもう学校くらいしかないのか!?

学校での平和な時間を松田・元浜と過ごし、放課後になった。

もう、家にあの変態はいないよな?
これでもまだ居たら本格的に家出を考えないとまずい。
でも、家出するには一旦荷物を取りに戻らないとダメだ。
どうしても一度は家に戻る必要がある。
幸い、夜は力が漲るから朝と逆の手順で、部屋に入って脱出できるはずだ。
でも、寝泊りはどうするかな……
松田か元浜の家に厄介になるのも手だけど、あいつらまで巻き込むものな……

「ちょっといいかな? 君が兵藤一誠くん?」
「は? あ、ああ。俺が一誠だけど……」

肩を叩かれて振り向くと、そこには学校一のイケメンと名高い木場 祐斗(きば ゆうと)がいだった。
今まで家出計画を考えてたらか、周りのことが全然耳に入ってこなかったけど、集中が解けると一気に情報が入ってきた。
廊下や教室のあちこちか女子の黄色い歓声が沸きあがり、男達(筆頭、元浜・松田)は忌々しげに木場を見ている。
時々「木場くんが穢れる」だの「兵藤よりも私と!」とか「木場くん×兵藤なんて……ありね!」とか。
とりあえず、最後の女子には俺を追いかける変態を押し付けてやりたい。

「悪いんだけど、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「あー、それ長くなるか? 今日は用事があるんだけど」
「ちょっとした説明をするだけだから、そんなに時間は掛からないと思うよ」

むー、どうしよう。
一応、まだ日が沈んでないから時間があるといえばある。
でも、まだまだ考えることは山ほどあるから、時間が余ってるわけじゃない。

「ちなみに日を改めってって言ったら?」
「別にそれでも構わないけど……」

そこまで言って、木場が顔を耳元に近づけて小声で囁いた。

「昨日のように、危険な目に会うかも知れないよ?」
「っ!」

慌てて、木場から離れた。
もしかして、コイツの変態の仲間か?

「どうする?」

にっこりと微笑む木場を見て、周りの女子はキャーキャー騒いでいるが、俺の耳にはまるで別世界のことのように感じる。

「お前は……アイツの仲間か?」

木場を威嚇するように睨みつけたが、木場は笑顔を崩さず答えた。

「いや違うよ。むしろ敵対してるくらいかな」
「それをココで証明できるか?」
「逆に聞くけど、どうすれば証明になるかな?」

質問に質問で返すのはマナー違反だ。と言いたいところだが、全く持ってその通りだ。
コイツがどんなことを言おうが、何をしようが証明になんてなりえない。
相手のことをよく知りもしないし、疑おうと思えばいくらでも疑える。

「俺の安全は保障されるのか?」
「さっきも言ったけど、僕らはあいつらと敵対してるし、君を傷つける理由もないよ」
「……わかった。付き合おう」
「ありがとう。案内するよ」

更新日:2014-02-15 20:17:07

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