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旧校舎のディアボロス 第10話 木場side

「部長。どうして一誠くんに本当の事を言わなかったんですか?」

部長は、始めから彼を無理やり仲間にするつもりなんてない。
確かに、契約に従うなら彼を生き返らせた分の対価を貰わなければならない。
でも、死に掛けだった一誠くんに生き返るだけの対価は払えない。
なら、悪魔になってからその分の対価を払わないといけない。
もっとも、事前に対価云々を説明して結んだ正式な契約じゃないから、部長が請求しなければ一誠くんに支払いの義務は発生しない。

「イッセーを生き返らせた対価は確かに必要だけど、その対価に彼の残りの人生を奪うのは過分すぎるわ」
「そういうことを言ってるんじゃありません。なぜ、自分が悪者になるような事をしたんですか? 彼が眷属にならないならならないで、ある程度の制限で自由に暮らさせるつもりだったんでしょう?」

そう、部長は始めから一誠くんに眷属入りを強要する気はない。
眷属にならないなら、『人を襲わないこと』『許可なく町から出ないこと』『悪魔の力を悪用しない』など制限の元に人間として暮らすことを許可するつもりだった。

「今からでも一誠くんの誤解を解きましょう」
「それはダメよ」
「どうして!?」

僕にはわからない。なぜ部長は悪役を進んで買ってたのか……

「イッセーも言っていたでしょう?『私達のことは嫌いじゃない。けど、脅迫まがいの方法が気に喰わない』って」
「だから、誤解を解けば……」
「誤解を解けば、イッセーは仲間になるでしょうね。命の恩人の頼みだから」
「っ!」

ないとは言い切れない。
いやむしろそうなる可能性が高い。
彼は悪魔にされたにも関わらず、恨み言1つ言うことなく、部長達にお礼を言った。
悪魔にされたとは言え、命の恩人には変わりないからだ。
命を救ってもらっておいて、悪魔にされたことを攻めるなんて調子が良すぎる。しかし、一誠くんはお礼だけを述べた。
あまり面識のない僕でも、そこから多少彼の性格を読み取れる。
一誠くんは、無理強いでなくお願いなら、恩を返すために眷属になるような義理堅い性格の持ち主だろう。

「私もイッセーが眷属になってくれれば嬉しいわ。けど、彼はちょっと前までこちら側のことなんて何も知らず、平穏に生きてきた人間よ。せっかく生き返ったと言うのに、生き返らせてくれた相手のお願いで、再び命の危険に身を晒すのよ? こちら側は向こうと違って危ないこともたくさんあるわ。一般人と言ってもいい彼が契約以外で悪魔や敵対する天使・堕天使が関わるなんて命を捨てに行くようなものよ。本末転倒とはこのことだわ」
「……差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」
「いいのよ。私を思って言ってくれたのだもの」

眷属でないことでデメリットもあるが、初めからならないことも考えている……いや、ならないと考えていた部長のことだ。
きっと、彼をはぐれ扱いしないのだろう。
部長が生きていて、逃げられたと問題にしなければ悪魔側は、一誠くんを『はぐれ』に出来ないし、堕天使や天使は、主の名前を言えば早々手出しはしない。
一誠くんの生活に多少こちら側との接点が増えるけど、眷属になってこちら側にどっぷり浸かるより危険は少ない。
部長が悪役になるのと引き換えに……だけどね。

更新日:2014-02-15 20:44:24

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