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長いような短いような沈黙。
急に風が冷たく吹く。


まだ、彼は振り向かない。

もしかしてあれですか?

無視ですか?



「あの」



そう言いかけて。



「知ってるのか」



やっと、返ってきた言葉。

背を向けて座ったままそう尋ねられた。



「・・・・はい?」



「俺のこと、知ってんの?」



「なんて言うか・・・・

 知ってるような、気がするだけです。」



「へぇ」



「それで

 あたしと会ったことは・・・・」



「ない」



「え・・・・」



「人違いだろ。

 だからもういい。早く戻れ。」



スパッと即答された。

そんなにあたしが邪魔なんだなぁ。




「じゃあ、帰りますけど」



「・・・・・」



「毎朝ここに居るんですか?」



「・・・・・」



「また、来ます。」






返事のない会話でも良かった。



この人は知らないって言うけど

きっと、何かあったんだ。


あたしが忘れているだけ。





この出会いは必然に違いないと

推測が確信に変わっていくのが分かった。




この日から。







更新日:2013-03-11 18:04:52

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