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§ 傷

 当時、総務には仲の良い友人が二人いました。
一人は、今、電話で話していた加奈ちゃんです。
もう一人は、しおりちゃんです。
よく三人で、仕事が終わった後、パブに行ったりしていました。
でも、今は、話が出来るのは加奈ちゃんだけなのです。
 私は当時のことを思い出していました。
バレンタインの3日前、しおりちゃんと一緒にチョコレートを買いに行ったのです。
加奈ちゃんは、柄でもないとバレンタイン無視派ですから誘っても行かないことは分かっていました。
 それで、ロッカーで帰る準備をしていた しおりちゃんに声を掛けました。
しおりちゃんは、ちょっと躊躇したのですが、一緒に行くことになりました。
私は、寄る所でもあったのかと思いましたが、直ぐにOKしたので気にしませんでした。
行ったのは、手作りチョコで有名なお菓子屋さんです。
私は、木村さんにあげるチョット高めのチョコと義理チョコを数個買いました。
 レジに並んでいると、しおりちゃんがチョコを持ってやってきました。
しおりちゃんも高級なチョコを一つ持っていました。
私は、それを見て言いました。

「 高そうなチョコ。」
「 ええ。」
「 そうなんだ。」
「 うん。」
「 がんばってね!」

 しおりちゃんは、少し俯いて頷きました。
それまで、しおりちゃんはチョコをあげるような人の話はしなかったのです。
私は、誰かなって思いました。
でも、職場の人も思いつかなかったし、別のつながりで知り合った人だと思いました。

更新日:2009-02-06 21:00:56

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