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It seems like a little flower

 10月下旬
 街道沿いの駐車場に大型バイクを置いて、海峡に向かってのんびり歩んでいた その先に機構の桟橋とボートハウスがある
今朝早く呼び出しcallがあり、今日から数日の間にNorth Africaのある国へ赴くことになった
実は全く気が進まない だからこそさっさと行って、済ませてしまいたかった
呼び出しから半日と立たない今、出発地点となる場所を目指している
モーターボートで、軍の施設に移動するのだ
 切通しの道 少し行った左側の崖下には桟橋があり、右側は4、5メートルほどの高さの草垣が続いている 最近気温が下がったせいか、草は少し枯れ始めていた
その上には常緑のヒイラギ樫が生い茂った公園があり、朝夕はジョギングコースが賑わっているが、日中は全くと言っていいほど人の気配が無かった
平日の正午近い今、ひんやりとした静けさが木立の中を支配している
 ふと、微かに人声が聴こえた気がした
 「 ん ? 」
耳をそばだてる
子供の声‥‥叫び声だったような気がする
 緊張した響き ただならないものを感じた
咄嗟に、右肩に背負っていたキャリングケースを、バッグと同じように背中に斜め掛けする
20度程の切り立った崖の、草垣の上を目指した
湿って足許を滑らせる長い草ひげ それを掴んで、一気に駆け上がる
 崖の上に出た さらにもう一度、よく耳を澄ます
木立の中では共鳴して、音の出所が解りづらい
 「 ‥‥‥ 」
 不自然な反響音 だが、あきらかに子供の声だ
言っている言語は不明だが、切迫した気配は救けを呼んでいるのに間違いない
 子供の声に覆いかぶせて男の声が、ラップを歌うように卑猥な言葉を叫んでいる それでピンと来た
すぐ脇の3メートルほど下のジョギングコースに飛び降り、海に向けて駆け下る
はるか右方向に海峡を越える大橋に向けて通る高速道路、巨大な橋脚が見える
 高架陸橋の下 トンネル状のジョギングコースの、小暗い空間
向こう側の出口の馬蹄型の明かりの中に、踊ってでもいるかのような人影があった
なにか揶揄するようにわめいている 小柄な男だ 未成年かもしれない
その足許にうずくまっているような、影が見て取れる
 「 動くな ちゃんと抑えてろ 」
いらついた若い男の声
 「 お、抑えてるよ 」
上ずった声が返す
 後腰のホルダーからハンドガンを抜き、構えながら静かに近づく
 薄明かりにぼんやりと、真っ白な子供の両脚が見えた
うずくまった1人はその脚を抱え、もう1人は子供の頭の側で両腕を抑え、片手で口をふさいでいる
唐突に 怒りと嫌悪感が溢れだした
 「 ‥‥止めろ! 何している、おまえら!! 」
 彼は叫んだ
何の躊躇もせず、真直ぐに現場に駆け募る
踊っていた男は、奇声を上げながら飛びかかって来た やはり若い、二十歳くらいか アーミーナイフを握っている
切りつけて来たのをそのまま、右手で掴んで引く 相手が上体を泳がせたところを、銃を握った左拳で殴り倒す 小柄な男の体は、数メートル先に吹っ飛んだ
それには構わず、脚を押さえている男の襟首を掴んで、力まかせに子供から引き離す
男は、仰向けに地面を転がった
背後からもう1人の男が掴みかかって来た
振り向きざま肝臓を狙って蹴って、トンネルのコンクリートの壁に叩きつける
べたん‥‥と、いやな音がした
 転がっていた男が立ちあがって来た その正面に立ち、銃口をぴたりと眉間に突き付ける
同じく若い 学生のようだ 男は中腰で両手を上げる
下ろしたズボンと下着が、だらしなく下がるのを気にしたようだった
 ざわ‥‥ と、自分の内で 何かが蠢く
銃を把持したままの左拳で、男の横面を思い切り張り倒す
空気の漏れるような悲鳴を上げて、男は昏倒した
 失神させた3人の若い男にプラスチック製の簡易手錠をかけ、急いで子供の元へ寄る

 子供は、色白の男の子だった
年のころは8歳前後か 目を見張る程の美少年である
 金色を帯びた輝く白金の長い髪は乱れて‥‥蒼白いぬめのような肌に、泥と草汁が付いている
ばら色の小さな口唇を僅かに開いていた
下半身の洋服は脱がされ、か細い両脚が曝されている
白いソックスは汚れて、右脚のみエナメルの靴が脱げきらず爪先に引っ掛かっていた
ブラウスはボタンが引きちぎられ、肩まではだけられている
少年のすぐ傍らに、真白くふわふわのウサギのぬいぐるみが落ちていた
 虚ろな碧の眼差しは朦朧と中空を見定め、動かない
思わず息を飲んで、両腕で子供の身体を抱えた
頸動脈に触れる 脈はある だが息をしていない
口と鼻を同時に押さえられたのだろう
首を後ろに反らせ気道を確保すると、小さな柔らかい口唇を口唇で覆い、息を吹き込む
薄い胸が膨らみ‥‥
もう一度口唇をつけ、思いを込めて2、3度息を吹き込む

更新日:2013-01-24 19:55:33

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