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黄昏に歪む

 私は調査を終えて、絵美加の許へと帰ろうとしていた。このあたり一帯は猫の縄張りが多くて困る。知らない振りをして、通り過ぎようとした。
「おい」
「野蛮な猫は困りますね。直ぐにちょっかいを出す……」
「なにを――」
 私は三毛猫からするりと逃げ出した。素早く塀へと飛び移る。事務所に帰ろうとした。そこで、彼と出会ったのだった。
 
 彼は、酷く衰弱したように路地裏で蹲っていた。雨に濡れ、意識も朦朧としているらしい。私はそのうっすらと反応する彼の頬を舐めて意思の疎通を試みた。外では私はただの黒猫でしかないのだ。どうにも、人間でないと不自由である。二本足で立つことが出来れば抱えるなり背負うなりできるだろうが、猫にはそれほどの体力もない。
(人間を呼ぶか……)
 彼は我々を求めている。誰かの元でこの体を癒して再び帰ってくる。それが分かっていたので、ひとまずどこかで休ませる為に人間を呼ぼうと試みた。



 

更新日:2009-02-04 04:24:35

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