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「腕を上げたな、遊真」
朝食後、D-ホイールの整備を行っていると、遊星はそう言ってきた。
遊真は何も言わず、『white-rabbit』の整備に集中した。
嬉しくない訳ではない。
ただ、少し気恥ずかしかったのだ。
それは遊星も分かっているのか、自分も整備に打ち込んだ。
「ほー、すげぇじゃねぇか遊真」
遊真の手付きを見て、クロウも感嘆の声を上げた。
「遊星に基礎教わっただけなんだろ? 独学か?」
色々と尋ねてくるクロウを横目で見ながら、遊真は。
「……気が散る……少し静かにしてくれ」
冷ややかにそう言うと、クロウは「はいはい、邪魔者は出て行きますよ」と行って自分のD-ホイールに跨った。
「配達に行くのか? クロウ」
スパナやドライバーといった工具を持った遊星が尋ねる。
「おぅ! サテライトでは物資不足で配達は貴重なんだと。 ここ最近出突っ張りだぜ!」
へへん、と鼻の下をこするクロウ。
なんでも、生活費兼D-ホイールの部品代を稼ぐ為に、自ら配達業を始めたらしい。
調子のほどはクロウを見ていればわかるだろう。
「そうか……そういえばこの前ジャックを手伝いにすると言ってなかったか?」
遊星はクロウにそう尋ねた。
その話題に、食後のティータイムを楽しんでいたジャックの体が震える。
クロウは配達を始め、遊星も近隣の住民の壊れた機械などを修理してお金を稼いでいるのだが、そんな中、ジャックだけは仕事もせずに家でふんぞり返っているらしい。
クロウはジャックを指差し、興奮気味に言う。
「それがよぉ。 手伝わせたら配達住所間違えるわ、クレームには『ジャック・アトラスに間違いはない』の一点張りだわ……使いもんにならなかったんだよ」
「クロウ! 貴様!」
「悔しかったら荷物の一つでもきちんと届けて見ろっての!」
険悪モードに突入した二人に、遊星は肩を竦めるが、何か思いついたように遊真の方を向いた。
「遊真、配達やってみたらどうだ?」
いきなり話を振られ、遊真は多少驚きながら返事を返す。
「……俺が、ですか?」
正直、シティは愚かサテライトの地形すら把握していない遊真に勤まるのだろうかという不安と、他人と関わりたくないという気持ちが強い。
「今日は荷物多いから、手伝ってくれんなら助かるぜ」
遊星の提案に、クロウは笑顔を向けてきた。
「……否、と言われても場所が皆目見当も付かない」
「遊真のホイールのナビデータをインストールすれば、なんとかなる」
戸惑いがちに言う遊真に、遊星はそう言う。
「頼む、な? ジャックじゃ頼りにならねぇんだ」
両手を合わせ、頭を下げてくるクロウ。
そこまでされて、断るわけにも行かず、遊真は一言「わかった」と頷き、遊星に周辺のナビデータをインストールしてもらう。
「助かるぜ。 じゃあ、これ遊真の分担な」
そう言ってガレージの奥からクロウはどっさりと段ボールを運んできた。
あまりの量にげんなりする遊真に、クロウはムッとした表情を見せると。
「これでも俺が運ぶ量の半分なんだぜ?」
「……これの倍?」
遊真の身長を超えるくらいに積まれた段ボールが、二倍あると思うと気が遠くなった。
「じゃ、俺は先行くぜ。 昼飯時になったら帰ってくらぁ」
「あぁ」
「フン……精々配達先を間違えぬようにな」
「テメェとは違うんだよ、ジャック」
そう言い残し、クロウはガレージを出て行った。
「……俺も行きます……」
そう言って遊真は最初の配達物を『white-rabbit』に積み込むと、エンジンを掛ける。
「あぁ、気をつけてな」
「……はい」
遊真は返事をすると、ガレージを後にした。
「腕を上げたな、遊真」
朝食後、D-ホイールの整備を行っていると、遊星はそう言ってきた。
遊真は何も言わず、『white-rabbit』の整備に集中した。
嬉しくない訳ではない。
ただ、少し気恥ずかしかったのだ。
それは遊星も分かっているのか、自分も整備に打ち込んだ。
「ほー、すげぇじゃねぇか遊真」
遊真の手付きを見て、クロウも感嘆の声を上げた。
「遊星に基礎教わっただけなんだろ? 独学か?」
色々と尋ねてくるクロウを横目で見ながら、遊真は。
「……気が散る……少し静かにしてくれ」
冷ややかにそう言うと、クロウは「はいはい、邪魔者は出て行きますよ」と行って自分のD-ホイールに跨った。
「配達に行くのか? クロウ」
スパナやドライバーといった工具を持った遊星が尋ねる。
「おぅ! サテライトでは物資不足で配達は貴重なんだと。 ここ最近出突っ張りだぜ!」
へへん、と鼻の下をこするクロウ。
なんでも、生活費兼D-ホイールの部品代を稼ぐ為に、自ら配達業を始めたらしい。
調子のほどはクロウを見ていればわかるだろう。
「そうか……そういえばこの前ジャックを手伝いにすると言ってなかったか?」
遊星はクロウにそう尋ねた。
その話題に、食後のティータイムを楽しんでいたジャックの体が震える。
クロウは配達を始め、遊星も近隣の住民の壊れた機械などを修理してお金を稼いでいるのだが、そんな中、ジャックだけは仕事もせずに家でふんぞり返っているらしい。
クロウはジャックを指差し、興奮気味に言う。
「それがよぉ。 手伝わせたら配達住所間違えるわ、クレームには『ジャック・アトラスに間違いはない』の一点張りだわ……使いもんにならなかったんだよ」
「クロウ! 貴様!」
「悔しかったら荷物の一つでもきちんと届けて見ろっての!」
険悪モードに突入した二人に、遊星は肩を竦めるが、何か思いついたように遊真の方を向いた。
「遊真、配達やってみたらどうだ?」
いきなり話を振られ、遊真は多少驚きながら返事を返す。
「……俺が、ですか?」
正直、シティは愚かサテライトの地形すら把握していない遊真に勤まるのだろうかという不安と、他人と関わりたくないという気持ちが強い。
「今日は荷物多いから、手伝ってくれんなら助かるぜ」
遊星の提案に、クロウは笑顔を向けてきた。
「……否、と言われても場所が皆目見当も付かない」
「遊真のホイールのナビデータをインストールすれば、なんとかなる」
戸惑いがちに言う遊真に、遊星はそう言う。
「頼む、な? ジャックじゃ頼りにならねぇんだ」
両手を合わせ、頭を下げてくるクロウ。
そこまでされて、断るわけにも行かず、遊真は一言「わかった」と頷き、遊星に周辺のナビデータをインストールしてもらう。
「助かるぜ。 じゃあ、これ遊真の分担な」
そう言ってガレージの奥からクロウはどっさりと段ボールを運んできた。
あまりの量にげんなりする遊真に、クロウはムッとした表情を見せると。
「これでも俺が運ぶ量の半分なんだぜ?」
「……これの倍?」
遊真の身長を超えるくらいに積まれた段ボールが、二倍あると思うと気が遠くなった。
「じゃ、俺は先行くぜ。 昼飯時になったら帰ってくらぁ」
「あぁ」
「フン……精々配達先を間違えぬようにな」
「テメェとは違うんだよ、ジャック」
そう言い残し、クロウはガレージを出て行った。
「……俺も行きます……」
そう言って遊真は最初の配達物を『white-rabbit』に積み込むと、エンジンを掛ける。
「あぁ、気をつけてな」
「……はい」
遊真は返事をすると、ガレージを後にした。
更新日:2013-09-23 08:20:43