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第8話『迫り来る脅威』



「おーっす」

目をこすりながら、クロウはガレージの二階から降りてきた。
 ガレージには既に遊星が降りて、朝食の準備に取り掛かっていた。

「クロウか……朝食はもう少しで出来る」

 そう言いながら、遊星は炒めていた野菜を皿に盛っていく。

「そりゃあ願ったり叶ったりなんだが……遊真は、ずっとあんなんか」

 クロウは難しい顔をすると、ガレージの隅で縮こまっている遊真を指差した。

「ああ、昨日から何も食べていないし、喋ってもいない」

 遊星は心配そうに遊星を横目で見ながら、朝食をテーブルに並べていく。
 クロウはそれを聞いて頭を掻いた。

「そりゃ憧れの奴にボロクソにやられりゃあショックだろうがよぉ」

 クロウはもう一度遊真を見ると、続ける。

「いつまでもうじうじしてる訳にはいかねぇだろ」

「その通りだが、今はそっと――」

 遊星がそう言い掛けた時、階段を降りてくる音が聞こえてくる。

「飯はまだか?」

 軽く欠伸をしながら、ジャックが降りてきた。

「む……野菜は食わんぞ」

 朝食を見るや否や、ジャックは怪訝な顔をした。

「ジャック、好き嫌いは良くないぞ」

「キング様は肉食ですってか?」

 二人から避難を受けたジャックは、居心地が悪くなり、顔を背けた。
 その先には、遊真の姿があった。

「む、アイツ……」

「止めとけジャック。 今はそっとしとけ」

 そう言うクロウを無視し、ジャックはずかずかと遊真へと近づいていき、その胸倉を掴んだ。

「おい貴様! 昨日の闘志はどこへいった!」

 突然叫ばれ、遊真は多少驚いたようだったが、何も言わずに俯くだけだった。

「ッこの」

 遊真の態度で耐えきれなくなったのか、ジャックは拳を振り上げる。

「止めろってジャック!」

 クロウはジャックの腕を必死に止める。

「止めるなクロウ! こいつには一発お見舞いしてやらねば!」

 ジャックはクロウを振り解こうと暴れるが、クロウはそれを食い止める。
 遊真はその光景を呆然と見ているだけだった。

――鬼柳を止める事が出来なかった。

 その思いが遊真を支配していた。
 鬼柳のハンドレスコンポに圧倒された挙げ句、遊星との誓いを破ろうとしてしまった。
 半ば無理矢理遊星達の住むガレージに招かれてしまったが、正直遊星に合わせる顔が無かった。
 そして、鬼柳が最後に言った言葉が、遊真の頭を巡っていた。

――忘れちまったよ。 満足なんて言葉。

(そんなんじゃ……満足出来ないじゃないですか)

 虚ろな目をする遊真に、ジャックは舌打ちをすると。

「フン、見損なったぞ」

 ジャックは乱暴に胸倉を放し、テーブルに座り、朝食にがっつき始めた。
 クロウは溜め息を吐くと。

「あれでも心配してんだ。 悪く思わねぇでくれ」

 と言って自分も朝食を食べ始めた。
 その入れ替わりに、遊星は遊真の前に座ると手を差し伸べた。

「何か食べないと体に障る」

 遊真はただ伸ばされた手をジッと見るだけで、手を取ろうとはしない。
 遊星は苦笑するが、手を退こうとはしない。

「約束を破った事は気にしていない。 俺だって鬼柳を止めたかった」

 他の二人は「好きにさせておけ」と言って何も言わなかったが、遊星はあまり鬼柳をひとりにさせたくは無かった。

「遊星さん……」

「だが、大丈夫だ。 きっと、気が済めば帰ってくる」

 「鬼柳はそういう男だ」と遊星がそう言うと、なんとなくそんな気がしてくる。
 遊真は遊星の顔を見ると、そこには優しい笑みが浮かんでいた。

「遊真、遊星早く来いよ! 飯冷めちまうぜ?」

「来ないのならば、遊真の分など食ってくれる!」

「じゃあ遊真の野菜もきちんと食えよ?」

 クロウが嫌みを言うように言うと、「そ、それはいらん!」と顔を紅潮させていた。
 クロウ、そして遊星が笑う中、遊真もつられて微笑を浮かべた。
 その瞬間、遊真の腹の虫が盛大に鳴り響き、遊真の顔が赤くなった。

「腹がへったろう? 一緒に食べよう」

 そう言ってくる遊星の手を取り、遊真は立ち上がって朝食を取るのだった。

更新日:2013-09-23 08:17:58

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遊戯王~GOD SWEEPER~神を薙ぎ払う者