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第1話『薄暗い檻の中で』
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「遊~真くーん。 起きてよー」
男が無理に作ったやけに気色の悪い女声が、『神薙 遊真(かみなぎ ゆま)』の耳を浸食してきた。
気持ち良く寝ていた彼にとって、この上なく不愉快だった。
もっと寝かせろ、とでも言わんばかりに寝返りをうち、声の主に拒絶の意を示した。
「むぅ、仕方ないなぁ。 目を覚まさないならキスするしか」
その一言を聞き、遊真は布団から勢い良く飛び出した。
声の主ならば、本当にやりかねないからだ。
「……お前……」
上体を上げた状態で声の主、黒髪の少年を睨む。
所々寝癖が付いているような少年で、あまり自身を省みないような印象を受ける。
「おー姫、ようやく起きましたか」
少年は大袈裟な仕草で遊真に語りかけるが、それは遊真の精神を逆撫でするだけだった。
「……誰が姫だ……」
そう悪態を吐きながら、遊真はベッドから降りた。
「ん? まぁノリだよな」
少年はあっけらかんと言うと、遊真のベッドに腰を掛けた。
遊真は、寝間着を脱ぎ捨て、いつもの服に身を包んだ。
――囚人服。
牢獄に入れられる者達が着させられるそれは、犯罪者の証だ。
それを着た自分の姿が、鏡に写し出された。
白い髪に、真紅の眼、肌は白く、全体的に白いイメージを受ける。
その中で異彩を放つのは、鼻の頭に付いている黄色い傷跡のようなもの。
否、それは傷ではなく、犯罪を犯したものに刻まれる証『マーカー』と呼ばれるものだ。
治安維持局によって管理されるそれは、発信機の機能も果たしており、犯罪者がまた犯罪を犯さないような抑制力がある。
「さてさて、遊真。 今日の相手は大物だぜ」
少年はポケットから一枚の紙切れを取り出すと、書かれた内容を読み上げる。
「『クロス・ルブレイ』、現在93連勝中のトップだ!」
「……そうか」
興奮しながら話す少年とは対照的に、遊真の反応は冷ややかなものだった。
「なんだよ感動が少ないなぁ」
不満を漏らす少年だが、遊真は鏡に写る自分を見つめ、こう言うだけだった。
「……相手が誰だろうと、俺の満足のいくデュエルをするだけだ」
そう言い切った遊真に、少年は肩を竦めるだけだった。
「囚人番号LG3667! 準備は出来ているか!?」
牢屋の外から、看守の怒鳴り声が響いた。
呼ばれた囚人番号は、遊真に与えられた番号だ。
「おっ、お迎えが来たな」
「……みたいだな」
牢屋の入り口まで近付き、看守と顔を合わせる。
「良し! 出ろ!」
牢の鍵が開き、遊真は外に出された。
付いて来い、と言わんばかりに看守は何も言わずに通路を歩いていく。
それに遅れないように、遊真は後を追っていった。
ここ、『サテライトA地区収容所』の地下では、毎日のように『決闘場(デュエル・アリーナ)』と呼ばれる賭け決闘が行われている。
観客は、対戦者のどちらが勝つかを予想し、金を賭け、時には大金を手に、時には裸で帰って行く者もいる。
そして、そ対戦者とは、大抵収容所の囚人のデュエリスト達であり、遊真も何回も繰り返している。
「遊~真くーん。 起きてよー」
男が無理に作ったやけに気色の悪い女声が、『神薙 遊真(かみなぎ ゆま)』の耳を浸食してきた。
気持ち良く寝ていた彼にとって、この上なく不愉快だった。
もっと寝かせろ、とでも言わんばかりに寝返りをうち、声の主に拒絶の意を示した。
「むぅ、仕方ないなぁ。 目を覚まさないならキスするしか」
その一言を聞き、遊真は布団から勢い良く飛び出した。
声の主ならば、本当にやりかねないからだ。
「……お前……」
上体を上げた状態で声の主、黒髪の少年を睨む。
所々寝癖が付いているような少年で、あまり自身を省みないような印象を受ける。
「おー姫、ようやく起きましたか」
少年は大袈裟な仕草で遊真に語りかけるが、それは遊真の精神を逆撫でするだけだった。
「……誰が姫だ……」
そう悪態を吐きながら、遊真はベッドから降りた。
「ん? まぁノリだよな」
少年はあっけらかんと言うと、遊真のベッドに腰を掛けた。
遊真は、寝間着を脱ぎ捨て、いつもの服に身を包んだ。
――囚人服。
牢獄に入れられる者達が着させられるそれは、犯罪者の証だ。
それを着た自分の姿が、鏡に写し出された。
白い髪に、真紅の眼、肌は白く、全体的に白いイメージを受ける。
その中で異彩を放つのは、鼻の頭に付いている黄色い傷跡のようなもの。
否、それは傷ではなく、犯罪を犯したものに刻まれる証『マーカー』と呼ばれるものだ。
治安維持局によって管理されるそれは、発信機の機能も果たしており、犯罪者がまた犯罪を犯さないような抑制力がある。
「さてさて、遊真。 今日の相手は大物だぜ」
少年はポケットから一枚の紙切れを取り出すと、書かれた内容を読み上げる。
「『クロス・ルブレイ』、現在93連勝中のトップだ!」
「……そうか」
興奮しながら話す少年とは対照的に、遊真の反応は冷ややかなものだった。
「なんだよ感動が少ないなぁ」
不満を漏らす少年だが、遊真は鏡に写る自分を見つめ、こう言うだけだった。
「……相手が誰だろうと、俺の満足のいくデュエルをするだけだ」
そう言い切った遊真に、少年は肩を竦めるだけだった。
「囚人番号LG3667! 準備は出来ているか!?」
牢屋の外から、看守の怒鳴り声が響いた。
呼ばれた囚人番号は、遊真に与えられた番号だ。
「おっ、お迎えが来たな」
「……みたいだな」
牢屋の入り口まで近付き、看守と顔を合わせる。
「良し! 出ろ!」
牢の鍵が開き、遊真は外に出された。
付いて来い、と言わんばかりに看守は何も言わずに通路を歩いていく。
それに遅れないように、遊真は後を追っていった。
ここ、『サテライトA地区収容所』の地下では、毎日のように『決闘場(デュエル・アリーナ)』と呼ばれる賭け決闘が行われている。
観客は、対戦者のどちらが勝つかを予想し、金を賭け、時には大金を手に、時には裸で帰って行く者もいる。
そして、そ対戦者とは、大抵収容所の囚人のデュエリスト達であり、遊真も何回も繰り返している。
更新日:2013-01-14 22:53:05