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「よし、できた」

3分もしないうちに
そんな言葉が聞こえた。

素早くて丁寧な器用さが
少しだけ、羨ましい。

『じゃあ
 行ってくる』
「・・・これで、彼氏でもいたら
 思い出になるのになー」

なにげない一言に
心が、ちぎれそうになった。

『・・・いたって
 意味ないでしょ』
「えー?
 なん『どーせもうバイバイなんだから』」

こんなこと
言いたくないよ。

でもね。
悔しさと
切なさと
苦しさと

ほんの少しの、怒り。

そんな感情が起こすジレンマが、
ぶつけなきゃ、壊れそうなの。

『行ってきます』

日付が変わるたび
別れを感じる。

カレンダーをめくるたび
視界が滲んで仕方なかった。

『・・・あっつ・・・』

見上げた星が
羨ましい。

辛い気持ちもなんにも知らずに
毎日、キラキラ光ってる。

あたしも
そんな風に生きたかったな。


なんて思ってると
祭り会場の神社が目の前に広がった。

「花梨!」

鳥居をくぐると、結衣が見えた。

『結衣・・・って、え?』

手を振る結衣の横に
誰かいる。

見慣れた背格好の、二人組。

近づくと
もう、はっきり分かった。

『なんで・・・
 相沢と・・・武田?』

にこにこ笑う相沢と
ふて腐れた顔の武田。

「人数は
 多いほうが楽しいだろ?」
『・・・仕組まれた』
「ぴんぽん♪」

結衣の言葉を信じたあたしが
バカだったんだ。

結衣はそんな
純粋で単純な子じゃない。

『二人でって
 結衣言ったじゃん』
「いや?
 あたしは一緒にって言っただけ」
『・・・卑怯だ』

ずるい。
有り得ない。

そう思うのに
心のどこかで、喜んでる自分がいる。

「さーて結衣
 まずどこ行く?」
「んー・・・
 なんか食べたいな」
「じゃーむこうに・・・」

どんどん進む結衣と相沢。

その少し後ろを武田が歩いてて

その隣に行く勇気がないあたしは
またその少し後ろを、歩いてる。

「花梨ー?
 大丈夫ー?」

様子を確認するように、振り向いた結衣。

『うん・・・』

歩く速度的には大丈夫だけど
気まずさは極限状態。

『あ、のさ、武田』

少しだけ
頑張ってみようかな。

「・・・ん」
『なんかごめん・・・
 多分こーなったの、あたしのせいだから』

恐らく結衣が、あたしの気持ちを知ってるから
こんな企画したんだろうし。

「・・・や
 木下のせいじゃない」
『えっ?』

少しだけ
おかしな声が出た。

“木下”
そう武田に呼ばれたのは
すごく、久々だったから。

「俺のせい。
 ・・・悪い」

武田の、せい?

なんで武田が?

『え、どういう意・・・
 わっ』

流れる人にぶつかって
どんっと転ぶはめに。

『あ、ごめん・・・』

恥ずかし・・・。

最悪。
置いていかれちゃうじゃん。

だって武田は
待ってくれないんだから・・・

「・・・大丈夫かよ?」

立ち上がろうとしたあたしの前に
そっと、手が差し出された。

『え、あっ』

武田
助けて、くれるの?

『うん
 大丈夫・・・』

立ち上がらないまま
うつむいた。

「立てる?」
『・・・うん』

差し出された手に
素直に頼れない。

焦りと緊張で
鼓動だけが、早くなる。

『えっと・・・
 その手は、あたしがつかんでも
 いいのでしょうか』

そう聞くと、流れ出す沈黙は
変に、ドキドキした。

「・・・ふっ(笑)」

軽く聞こえた笑い声は
間違いなく、武田だ。

『え』
「そんなこと聞く必要
 なくね?」

中学生になってから初めて見た
少しだけ、優しい顔。

「・・・ほら」

声がちょっと小さくなったと思ったら
武田から、手を握ってきた。

『ふあっ』

ぐいっと引っ張られて
簡単に立ち上がれた。

『あ・・・りがと』
「・・・うん」

なんか
簡単に持ち上げられちゃった。

昔はこんなに
力、なかったのにね。

「・・・はぐれるから
 行こ」
『うん・・・』

こんなことされたら
嫌でも意識しちゃうじゃん。


キミは
男の子なんだなって。

更新日:2013-01-12 23:17:12

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