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東白③

ピンポーン


 先生のうちは、「豪邸」だ。庭も広くて、畑のような場所もある。一人で住んでいるというには、ある程度の手入れがしてあって、キレイになっていた。


「…。」

 
 あれ?中から返事がない。ボクは、もう一度チャイムを押した。


 ピンポーン


「はい。」

 
 やっと、インターフォンから返事が聞こえた。


「あの。沖田です。」
「ん?……えっ?!」


 そういう声が聞こえたかと思ったら、急いだ感じの先生が、ドアを思い切り開けた。


「あ…う、わぁ…。本当にごめん。よくうちがわかりましたね。」
「あ、はい。住所を確認して…。」


 本当は先生の後をつけましたなんて、言えない…。先生は別段怪しがってはいないようだ。 
 

「あの、うちの鍵なんですけど…。」
「本当にごめん。まだ酔っているのかな、はぁ。本当に…なんてことを…。はい。コレです。」
「あ…。ありがとうございます。」
「いや…。そんな…。礼を言わないで欲しいよ。恐縮過ぎるじゃないか。」

 先生は、ガックリと肩を落とした。


「あ…。スイマセン。」
「あ!いやいや!…ごめん。また…なんてことを…。いや、本当に…。申し訳ない。」
「ふふっ。いえ、先生。大丈夫ですよ?そんな、恐縮なんてしないでください。」
「いや…。いや、大変恐縮ですよ。」
「え…。」
「あぁ、そうだ!何か、お詫びをさせてはくれないだろうか?何がいいだろう?何か、私に出来ることは…。」


 そう言って、先生が考え込んでしまっている。


「あ、いえ!いいえ!そんなこと…。いいんです、全然。」
「いや、それでは、私の気が済まないし…。申し訳なさ過ぎて、もうあの駅を利用出来なくなってしまいそうです。」
「え?!それは、困ります!…え…でも…。」
「何か、ありませんか?」
「え…。」


 今度はボクが、考え込んでしまった。先生にお礼をしてもらうだなんて…。だって、ボクからしたら、先生にお礼をいただく理由もないのに…。泊めたのだって、鍵のことだって、先生と仲良くなれて嬉しくて、逆にボクからお礼をしたいくらいだ。
 だけど、先生からしたら、そうだよなぁとも思うし。去年まで『教え子』だったようなボクに、迷惑をかけたって思っちゃってるんだろうから…。
先生の負担にならないような、お礼をしてもらうって、何があるだろう?

 ボクの頭に、二匹入ったパックの魚が浮かんで来た。

 そうだ。先生もボクも一人暮らしだし、一人わびしくご飯を食べる日に、先生と一緒にご飯を食べてもらえたら、すごく嬉しいことじゃないか。


「あ…あの。じゃあ、一回食事をご一緒させていただけませんか?」
「え?」
「あ…。ダメならいいんです!違うことを…。」
「いや!そんなことでいいんですか?」
「はい!ぜひ。」
「そんなことでいいのなら、ぜひ。お礼じゃなくても、ご一緒したいくらいだよ。是非、私にご馳走させてください。」
「あ…。ありがとうございます。」
「じゃあ、早い方がいい!明日は?明日はお仕事かな?」
「いえ。お休みです。」
「あ、じゃあ明日早速、ご馳走させてください!昼くらいに、うちに来ていただけますか?」
「あ…はい。本当に、いいんですか?」
「キミがいいなら、本当に是非。」
「あ…。ありがとうございます。」
「いやいや。だから、そこで礼を言わないでください。まったくもって、恐縮です。本当に夕べのことでは、キミにとんだ迷惑を…。」
「あ…。いえ。本当にもう、そんな気にしないでください、先生。」
「あ…じゃあ、本当に明日来てくださいね。」
「あ。…はい。ありが…あ、えっと…。いえ。…ありがとうございます。」


 やっぱり、ここは「ありがとう」って言うところだよね。いくら先生が恐縮したとしても…。


「ふっ…。キミのご両親は、きっとキチンとした方なんでしょうね。」
「あ…。ボク…。母がいないんです。」
「え…。」
「小さいうちに、事故で亡くしました。」
「そうでしたか…。いや、変なことを聞いてしまいましたね。…実は、私もなんですよ。」
「え?」
「小さくはなかったですけどね。学生のうちに、事故でいっぺんに両親を亡くしました。」
「…いっぺんに…。」
「あ…。すいません。つぐもくんの話だったのに…。」
「いえ。」
「…ここは、両親が買った家なんですよ。買ってすぐに、亡くなったもんでね。…この家を売るという選択肢が、私には選べませんでした。」
「…そうだったんですか。」
「…小さいうちに母上を亡くすとは…。大変でしたね、つぐもくん。」
「あ…、はい。結構苦労しました。」
「おっ。」
「え?」
「いえ。…謙遜するかと思ったものですから…。キミは本当に、真っ直ぐ育って来たのでしょうね。」
「え…。」
「うん。…さて。本当に、明日の昼くらいに、来てください。」
「あ…はい。では、失礼いたします。」
「はい。」

更新日:2013-01-19 15:32:20