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「どうか、しましたか?」

 ボクは、きっと、変な顔をしていたんだと思う。

「あ…、いえ…。」

 あの人が、先生の恋人じゃないとわかって、ホッとするとか…。
 おかしなことじゃないか。だって…本当だったら、喜んであげるべきことじゃないのか?
 そんな風にホッとするなんて、友人…と言ったら、おこがましいかもしれないけれど、仲良くしてくれる先生の幸せを、喜んであげられてないってことじゃないか…。

 どうして…。

 どうして?

 本当は、もう、ずっと前から、わかっていたんだと思う。


 嫌われたくないと、泣く程不安でいたくらい…、ボクは、先生が…。


 好き…なんだ。



 どうしよう…。
 ハッキリそんな風に自覚してしまったら、急に先生の全てを意識してしまう。
 先生と二人でいる、この空間が…。
 どうしようもなく、照れくさくて…。

 …幸せだ。


「はい、コーヒー持って来ましたよ?」

 先生が、コーヒーを渡してくれた。

「あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。…相変わらず、つぐもくんのお宅は、キレイにしていますね。」

 先生が、グルリと部屋を見回した。…何だか、やはり照れくさい。

「いえ、何にも、物がないだけだと思います。あ!そうだ!先生?」
「ん?」
「小説、面白かったです。」

 先生にお借りしていた小説を返した。

「あぁ、そうでしょう?今度、その続きをお貸ししましょう。」
「はい!ありがとうございます!」

 借りた本を返したことで、一つ失くした繋がりを、こうして、先生がまた繋ごうとしてくれるのが、嬉しい。
 でも…。
 どうしよう。

 …こんな気持ちを抱いたまま、ボクは、先生と普通に話していられるのだろうか?


 …だって。ボクは、どうしたいんだろう?先生と、どうなりたいっていうんだろう?どんな『好き』だっていうんだろう?友達以上に、好きなんだろうなぁって、そうは思うけど…。
 だって、先生もボクも男なんだし…。

 彼女がいた時の気持ちを、思い起こしてみたけれど…。

 この、今の気持ちよりも、強く『近くにいたい』と思った人はいなかったような気がして…。
 より、動揺してしまった。


「先生、いつまでお休みですか?」
 
 動揺を隠すように、急にそんな質問が、口をついて出た。

「ん?7日から出勤します。つぐもくんは、冬休みなんてないんですか?」
「あ…いえ。取ろうと思えば、取れますけど…。今年は、無理そうです。」
「そうですか。」
「お休みを取って、やることもないですし、いいんですけどね。」
「そう?つぐもくんは、お休みの日は、何をしているんですか?」
「え?…えっと。大体、寝ているか…。最近は、先生にお借りした本を、読んだりしていました。あの、先生は?先生は、お休みの日は、何をしているんですか?」

 あぁ、何だか、学生の頃にした、合コンを思い出す。こんな質問の投げ合いをしたっけなって。

「そう…ですねぇ。空を見ながら、庭の手入れをしたり…。やはり、本を読んだり…ですね。」
「あ…。先生。」
「ん?」
「あの…。ボクにも、庭の手入れをさせていただけないでしょうか?」
「え?!」
「先日、助けていただいたお礼にっていうか…。あの、あの時は、本当にありがとうございました。」

 お礼に、庭の手入れをさせてもらいたいだなんて…。すごく、無理矢理な気がするけど…。でも、それでも。…先生と繋がる理由が、欲しかった。

「いや、あれは…。助けたというか…。」
「え?」

 何だか、先生が口篭った。

「いや…。」
「あの…。どうですか?庭の件…。」
「え…。いいんですか?せっかくのお休みを、私のうちの庭の手入れだなんて…。」
「はい。寝ているだけでは、もったいないし。ボク、実家の庭の草むしりとか、好きだったもので…。案外、上手にやれると思います。」
「ほう。キミは本当に、良いご夫君になれそうだ。」
「…。」

 良いご夫君か…。
 先生にそう言われても、…全然、嬉しくない。

「ん?」
「あ…いえ。先生、さっそくなんですけど。明後日と明々後日、行けると思うんです。お庭の手入れ、させていただいても、いいですか?」
「え?お休みなんですか?」
「明日が宿直で、9:00〜明後日の9:00まで勤務なんです。明々後日は、公休になりますので、二日続けて、行かせていただいていいですか?」
「それは、全然嬉しいのですが…。明後日は私がおりますが、明々後日は、出勤になりますので、私はおりませんけど…。」
「お庭に勝手に入っても、いいですか?」
「あぁ、それは構わないですが…。」
「じゃあ、伺います。」
「…ありがとう。」

 先生と二人で、おせちをつつきながら、コーヒーを飲んだ。先生は、暗くなってから、帰って行った。
 …先生がいた後は、必ず、コーヒーとタバコの香りが残っている。


更新日:2012-12-28 13:06:37

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