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その帰り、ここら辺では、一番大きなスーパーに寄った。ここには、駅長の奥さんの「ゆみさん」が、パートで働いていた。
「あっらー、シロちゃん。」
「こんばんは。ゆみさん。」
「どーもー。何?今夜、何作るの?」
「あ。お魚を食べようと思って…。今日、ブリ安かったですよね?」
「そうそう!そうなのよ。今日、安売りしてんのよ、ブリ!って言うか、ホント偉いわねぇ。自炊するとかさぁ。うちのあゆみにも、爪の垢、ちょうだいよ。」
「え…。」
「あゆみさん」は、駅長の娘さんだ。駅長さんは、奥さんと娘さんの三人で、駅舎のすぐ横に住んでいた。
「ねぇねぇ、そういやぁシロちゃん。彼女いる?」
「え?…いない、デス。」
「早いとこ見つけなさいよ〜!駅員なんて、出会いがありそうで、ないんだから!どっかにいたら、すぐ結婚しちゃいなさい。」
「え…あ…はい。」
「あっはっはっは…。シロちゃん可愛いから、大丈夫よ。困ったら、うちのあゆみ、あげるから。」
「え?」
「なによ?」
「え…いえ…。ありがとうございます。」
とは言ったものの…。
あゆみさんが、ぼくの先輩と付き合っているのを、ボクは知っていた。まだ内緒にしているみたいだから、ボクはなんとも、コメントがしづらかったんだけど…。ゆみさんが「あげる」と言っても、あゆみさんは、イヤだと思うんですよね、ゆみさん。すいません。
「ハア…。」
彼女かぁ。学生の頃は、何人かとも付き合ったことがあったけど…。彼女いない歴、もうすぐ7ヶ月になるんだなぁ。こちらに来ることになって、その時付き合っていた彼女と、すぐに別れることになってしまったから…。
彼女がいたら、ここにも、泊まりに来たり、してたのかもしれないなぁ。こうやって、一人わびしく、発泡酒とか飲みながら、ブリを二枚も食べることは、なかったのかもしれない。
翌日は、9:00〜9:00の勤務が入っていた。
24:00過ぎの終電から、人が2〜3人降りて来て、そこにあの人もいるのが見えた。
こんな遅いってことは、飲んだ帰りなんだろうか?それにしては、いつものように足取りがサッとしている。そう言えば、あの人が、酔いつぶれて帰宅してくるなんていう姿は、見たことがなかった。
この時間に帰ってきても、飲んで来たわけではないような、そんな仕事の人なのかも…。
そんなことを思いながら見ていたら、その人のポケットから、何かキラリと光る物が飛び出して、線路に落ちて行った。
カツンっという、金属のぶつかるような音が、静か過ぎるホームに響いた。
「あ…。」
「あ。今、拾いますよ?」
「あ…。すまない。」
「いいえ。」
その人にニコリと笑顔を向けて、ボクは拾い棒を持って来た。その人が落とした光る物は、シルバーのジッポだった。
「これ、ですね?」
「あぁ、ありがとう。」
「いいえ。気をつけて、お帰りください。」
「あ、あぁ。」
その人は、そのまま、やはり颯爽と歩いて帰って行った。
…初めて、あの人の声を聞いた。すごく、低くて渋い感じで…。あの外見に、すごく似合っていると思った。
翌朝。やはり、あの人は、7:45発の電車に乗るようで、7:40には、改札をくぐって行った。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。昨日は、ありがとう。助かりました。」
「あ…。いえ。当然のことをしたまでです。」
仕事ですから…。
「いや、君が気付いてくれなければ、そのままにして帰っていたと思います。」
「え?」
「…とにかく、ありがとう。」
「あ…。いえ。こちらこそ、ありがとうございます。」
「え?」
「あ…。そうして、お礼を言っていただけるのが、何より嬉しいことですので…。」
「あ…、うん。ありがとう。」
「いいえ。あ…いってらっしゃい。」
電車が入ってくる時間だ。
「あ…。うむ…。」
その人は、そう返事をして、入ってきた電車に乗って行った。
それから、その人は、挨拶をすると会釈だけでなく、返事をしてくれるようになった。挨拶くらいしか、言葉は交わさないけれど。何だか、随分仲良くなれたような気がして、ボクは内心、とても嬉しく思っていた。
「あっらー、シロちゃん。」
「こんばんは。ゆみさん。」
「どーもー。何?今夜、何作るの?」
「あ。お魚を食べようと思って…。今日、ブリ安かったですよね?」
「そうそう!そうなのよ。今日、安売りしてんのよ、ブリ!って言うか、ホント偉いわねぇ。自炊するとかさぁ。うちのあゆみにも、爪の垢、ちょうだいよ。」
「え…。」
「あゆみさん」は、駅長の娘さんだ。駅長さんは、奥さんと娘さんの三人で、駅舎のすぐ横に住んでいた。
「ねぇねぇ、そういやぁシロちゃん。彼女いる?」
「え?…いない、デス。」
「早いとこ見つけなさいよ〜!駅員なんて、出会いがありそうで、ないんだから!どっかにいたら、すぐ結婚しちゃいなさい。」
「え…あ…はい。」
「あっはっはっは…。シロちゃん可愛いから、大丈夫よ。困ったら、うちのあゆみ、あげるから。」
「え?」
「なによ?」
「え…いえ…。ありがとうございます。」
とは言ったものの…。
あゆみさんが、ぼくの先輩と付き合っているのを、ボクは知っていた。まだ内緒にしているみたいだから、ボクはなんとも、コメントがしづらかったんだけど…。ゆみさんが「あげる」と言っても、あゆみさんは、イヤだと思うんですよね、ゆみさん。すいません。
「ハア…。」
彼女かぁ。学生の頃は、何人かとも付き合ったことがあったけど…。彼女いない歴、もうすぐ7ヶ月になるんだなぁ。こちらに来ることになって、その時付き合っていた彼女と、すぐに別れることになってしまったから…。
彼女がいたら、ここにも、泊まりに来たり、してたのかもしれないなぁ。こうやって、一人わびしく、発泡酒とか飲みながら、ブリを二枚も食べることは、なかったのかもしれない。
翌日は、9:00〜9:00の勤務が入っていた。
24:00過ぎの終電から、人が2〜3人降りて来て、そこにあの人もいるのが見えた。
こんな遅いってことは、飲んだ帰りなんだろうか?それにしては、いつものように足取りがサッとしている。そう言えば、あの人が、酔いつぶれて帰宅してくるなんていう姿は、見たことがなかった。
この時間に帰ってきても、飲んで来たわけではないような、そんな仕事の人なのかも…。
そんなことを思いながら見ていたら、その人のポケットから、何かキラリと光る物が飛び出して、線路に落ちて行った。
カツンっという、金属のぶつかるような音が、静か過ぎるホームに響いた。
「あ…。」
「あ。今、拾いますよ?」
「あ…。すまない。」
「いいえ。」
その人にニコリと笑顔を向けて、ボクは拾い棒を持って来た。その人が落とした光る物は、シルバーのジッポだった。
「これ、ですね?」
「あぁ、ありがとう。」
「いいえ。気をつけて、お帰りください。」
「あ、あぁ。」
その人は、そのまま、やはり颯爽と歩いて帰って行った。
…初めて、あの人の声を聞いた。すごく、低くて渋い感じで…。あの外見に、すごく似合っていると思った。
翌朝。やはり、あの人は、7:45発の電車に乗るようで、7:40には、改札をくぐって行った。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。昨日は、ありがとう。助かりました。」
「あ…。いえ。当然のことをしたまでです。」
仕事ですから…。
「いや、君が気付いてくれなければ、そのままにして帰っていたと思います。」
「え?」
「…とにかく、ありがとう。」
「あ…。いえ。こちらこそ、ありがとうございます。」
「え?」
「あ…。そうして、お礼を言っていただけるのが、何より嬉しいことですので…。」
「あ…、うん。ありがとう。」
「いいえ。あ…いってらっしゃい。」
電車が入ってくる時間だ。
「あ…。うむ…。」
その人は、そう返事をして、入ってきた電車に乗って行った。
それから、その人は、挨拶をすると会釈だけでなく、返事をしてくれるようになった。挨拶くらいしか、言葉は交わさないけれど。何だか、随分仲良くなれたような気がして、ボクは内心、とても嬉しく思っていた。
更新日:2012-12-26 19:54:12