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小説

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東白⑤

 お正月の三日間は、ほぼ無休で働いていた。4日に、ようやく一旦家に戻れることになり、おせちを買って食べることにした。
 あれから先生は、また毎日、空の写真を送ってくれている。

「あ…。」

 そう言えば…。大晦日に、酔った乗客から助けてもらったお礼をしていなかったっけ。

 ボクは、初めて、先生に電話をかけた。…メールを打つのも、もどかしかったから。

「もしもし?」
「先生、沖田です。」
「うん。いやぁ、電話だなんて…どうしました?」
「先生、今、どちらですか?」
「家におりますよ。」
「おせちは、召し上がりましたか?」
「え?あぁ、少しは…。」
「あの…。お時間があったら、そちらにボクがお邪魔するか、先生がこちらに来ていただけないでしょか?」
「え?」
「大晦日に助けていただいたのに、ボク、ろくにお礼も言わないでいました。本当にありがとうございました。そのお礼と言ってはなんですが、おせちでもどうかと思ったものですから…。もう、4日で食べ飽きてしまっていたら、なんなんですけど…。」
「いや!飽きるなんてことは…。あの、じゃあ、そちらにお邪魔してもいいかな?うちは、相変わらずひどい状態なのでね。」
「ふふっ。じゃあ、お待ちしております。」
「あぁ。御屠蘇を持っていきますので。」
「え?いえ。もう、お酒はこりごりです。」
「ふっ…。じゃあ、何か違うものを持って行きましょう。」
「いえ。何もいりません。…あ!そうだ。あのコーヒーを少し、また分けていただけないでしょうか?」
「あぁ。わかりました。それなら、すぐに向かいます。」
「はい。」

 先生のお宅からここまでは、歩いて5分くらいのものだ。
 ボクは、窓から先生が来るのを、伺っていた。先生に会うのは、3日ぶり…かな?何だか、すごくウキウキした気分になっていた。

 しばらくして、背の高い先生が、いつものコートを着て、歩いてくるのが見えた。

「え…。」
 
 先生の隣に、並んで歩いている女性がいる。ドキリと心臓が鳴った。
 にこやかに話をしている女性の顔が見える。先生の顔は、見えなかったけど…。
 つい、窓の脇に隠れてしまった。こちらを見てはいないだろうけど…。 窓の脇から、こっそり二人を伺っていると、ボクのアパートの前で、二人は手を振って別れた。女性は、駅のほうに向かって歩いて行った。
 …誰なんだろう?ドキドキが、収まらない。もうすぐ、先生が来るっていうのに…。
 先生が、女性と一緒にいるなんて…。初めて、見た。
 よく見えなかったから、…そうだ!もしかしたら、姪子さんかも?!あ、お姉さんかも…。

 でも。

 …そうじゃなかったら?

 胸がざわついていた。苦しいくらい。


 インターフォンが、鳴り響いた。
 ボクは、返事もせずにドアを開けた。

「お…。無用心ですね?」

 先生が、にこやかにそんなことを言う。

「いえ。…先生がいらっしゃったのが、窓から…見えました。」
「あぁ、そうでしたか。」

 先生は、「おじゃまします」と言いながら、部屋に入って来た。
 何だか、心なしか、いつもより楽しそうに見える。

 …あの人と一緒にいたから?

 そんな考えが頭に浮かんで、何だか胸が、キュウっと絞められた。

「あの…。」
「ん?」

 先生が、にっこりと首をかしげた。

「あの…。先生がご一緒にいたかたは…。」
「ん?…あぁ、さっき?私の助手をしてくれている人ですよ。」
「はぁ、そうなんですか。」
「ここの神社は、本当に有名なんですね。初詣に来るついでに、書類を届けると言われましてね。」
「あぁ、そうなんですか。」

 助手の女性…。姪子さんでも、お姉さんでもない人…。さらにドキドキがひどくなったような気がする。…だって、遠目でも、どことなくキレイな感じがしたし…。

「あの…。キレイな人ですね?」
「え?見えたんですか?」
「あ…いえ。ハッキリではないですけど。」
「つぐもくんは、目がいいんですね?羨ましいなぁ。」

 先生は、メガネをくいっと上げた。いや、ボクもそんなハッキリ見えたわけではないけれど…。

「え…つぐもくんは、ああいう女性が好みですか?」
「え…。」
「…キミが、紹介して欲しいと、言うのなら…。」
「え…。いえ、言いません。」

 何だか、ムキになって否定していた。

「え?…そう?」
「…先生の、好みは…。」
「え?」
「あ…。いえ…。」

 何を聞こうと言うんだろう?ボクは…。胸のざわつきが、消えてくれない…。

「あ…。先生、座ってください。」
「あぁ、ありがとう。」

 でも、とにかく。紹介してあげようか?なんて言うくらいなんだから、あの人は、先生の恋人ではないってこと、だよね?

 
 …そう考えて、すごくホッとしている自分に、気付いてしまった。

更新日:2012-12-28 11:18:39