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「あ…すいません…。先生。」

 あぁ…。どうしよう…。本当に、ボクは。…先生を傷付けて、嫌われてしまったと思って、悔やんでいたんだ。すごく、先生に謝って、許されたかった。クリスマスの朝から、ずっと。
 なのに。本当に、先生がボクを嫌って、許してくれなかったらどうしようって、すごく怖くなっていて。ただ、心配しているだけしか出来なかった。
 また、笑いかけてもらいたくて…。空の写真が付いたメールを送ってもらいたくて…。でも、もうそれはしてもらえないかもしれないと、ガッカリするだけで、ただオロオロ心配しているだけしか、ボクには出来なかったのに…。
 それなのに、あんな風に、笑って「おめでとう」なんて言ってもらえたことで、先生に許してもらえた気になって、嬉しくて…。すごく、すごく安心して…。涙が止まらなくなっていた。

「つぐもくん…。」
「…どうしよう。」
「え?」
「…涙が…止まりません…。」
「え…え?…どうして…。」
「…先生…。」
「と…とにかく、ここでは、目立ちすぎる。」

 何かおかしいと思ったのか、先輩の『のりさん』が、走ってこちらにやって来た。

「どうかしましたか?」
「あ…。」
「え?…シロ?」
「あ…あの…すいません。…少し、下がっても、いいですか?」
「え…、あ、うん。…大丈夫か?」
「はい…。すいません。」

 ボクは、先生の袖を引っ張って、駅舎の中にある、休憩室に入った。

「え…。つぐもくん?」
「先生、お急ぎですか?」
「え…いや。」
「あの…。」
「うん。」
「ボク…。先生を、傷付けたんですか?」

 どうしても、聞いておきたい。先生に許されたように思ったけど。ボクが、先生を傷付けていたんだったら、謝りたかった。 

「え?」
「先生…あれから、その。駅に来ないのは、冬休みだからだろうって思っていたんですけど…。でも、メールもしてきてくれないし…。」
「キミも、連絡をしてくれなかったでしょう?」
「だって…。先生を…傷付けてしまったのかもしれないと思って…。嫌われてしまったのかと思うと…怖くて…。」

 また、泣きそうな気分になってしまった。

「そんな…。私も、同じでした。」
「え?」
「あの、夜のこと…。キミが思い出して、私を避けているのかもしれないと…、思っていたんです。」
「え?…あの、先生?ボク、何をしたんですか?」
「…つぐもくんは、どこまで覚えているんですか?」
「え?あの…。飲んでいたのは、覚えてます。それで…。先生が…。ボクに、背中を向けて…。ボク…。すごく、悲しくなったのまでは、覚えています。」
「…キミが、私に『嫌わないで』と、言って、すがりついて来たところかな?」
「あ…。それも、かすかに…覚えています。」

 タバコの香りがする、先生の胸に、飛び込んだ、微かな、記憶…。

「その時…。私は…キミに…。」
「…。」
「…キスをした。」
「…え?」
「…。」
「…先生、キス魔だったんですか?」
「は?」
「酔うと、キスしまくる人、いますよね。ボクの友人にも、います。」
「え…あ…。そう、なのか?」
「あ…あの…。でも、とにかく…。嫌われてはいないってことで…。いいんですよね?」
「もちろんです!…いや、それを言うなら、つぐもくんは…。」
「え?」
「私を、気持ち悪いとか…。」
「え?」
「いや…。キミとその…。」
「え?…キスしたこと、ですか?」
「あ…うん。」
「…う〜ん。あの…まず、ボク。覚えていないですし…。」
「…。」
「あの…でも。とにかく、先生に嫌われていないなら…。良かったぁ。」

 あぁ、すごく安心したら、また、泣けてきてしまった。

「…キミは。…本当に、なんていうか…。」

 先生は、その先は何も言わないまま、ボクの頭を軽く撫でた。

「…。」
「キミは…太陽のような人だ。」
「え?」
「…仕事は、大丈夫ですか?」
「あ!…ふぅ。戻ります。…先生?」
「はい?」
「あの…。また、メールをしていただけないでしょうか?」
「あ…。はい。…します。」
「良かった…。ありがとうございます。…あの、じゃあ、仕事に戻ります。」
「うん。」

 先生が、優しく微笑んで、手を振ってくれた。ボクは、手を振り返して、プラットホームに戻った。

 あぁ、本当に良かった。
 クリスマスから、ずっと抱えていた心配が、キレイに取れた思いだ。
 先生は、ボクにキスしたことを心配してたのか…。気持ち悪いなんて、思わないのに。キスしたくらいで…。
 って…。先生が、ボクにキス?…え?いやいや、ホント、酔ってキスしまくる『キス魔』っているし…。先生は、そんなイメージないけど…。でも。先生も、そのくらい軽いノリでいてくれたらいいのに…。
 キス魔なわりには、真面目な人なんだなぁ。
 ボクに「飲みすぎないほうがいい」なんて言っていたけど。先生こそ、飲みすぎないほうがいいだろうと、思った。

更新日:2012-12-28 00:04:24

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