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「はぁー…。ケーキを、探していました。」
「あ…。そんなに急がなくても…。ふふっ。…ありがとうございます。」


 こんなに、何だか必死な感じで、ケーキを差し出されたのは、初めてだ。先生って、何だかいつでも一生懸命な感じがする。


「あぁ…。いい匂いですね。」
「あ、ボク。洋食よりも和食のほうが得意なもので…。クリスマスっぽいものは、ひとつもないんですけど…。」
「え…。いいですよ。ボクも和食のほうが好きです。」
「あぁ、良かった。…どうぞ、入ってください。先生。」
「あぁ、お邪魔します。」

 背の高い先生が、引き戸になっている部屋の入口で、少しかがんで入ってきた。

「先生、身長どのくらい、あるんですか?」
「え…。そうですね。今年の健康診断では、180センチちょっとくらいだったと思います。」
「うわぁ。」
「まぁね。身長だけは、よく伸びたなぁと思います。キミは…。」
「170センチ、ギリギリあるかないかってところです。はぁー。少し分けていただきたいですよ。」
「え?キミは、そのままで、十分魅力的ですよ?」
「え?」


 『魅力的』だなんて…。
 女の子に言ってあげたら、先生なんか、すぐに彼女が出来そうなのに…。

「先生…。今日、お誘いがあったりしたんじゃないんですか?」
「ん?あぁ、寂しい者同士、飲みに行きましょうという話は、全てお断りしてきましたよ。」
「え…。」

 『寂しい者同士』って…。ボクが先生を誘ったのも、同じ理由だったのに…。


「あ…。いや、つぐもくんのお誘いが、一番早かったですからね。」
「あ…。あの、いいんですか?もっと大切な方々のお誘いだったのでは…。」
「キミは、私にとって大切な…。」
「…。」

 …大切な?
 その後、先生は随分と長く沈黙していた。
 ドキドキと鳴る胸の音が、先生に聞こえそうで、いたたまれない。
 どうしよう…。そう思っていると、先生が、ようやく口を開いた。

「大切な…恩人ですから。」

 先生は、そう言って、袖を捲くった。

「さて、何を手伝いましょうか?」
「あ…。では、お皿を出していただけますか?」
「え…。そんなことでいいんですか?切ったり、入れたりも出来ますよ?」
「ふふっ。…もう、ほとんど終わったんです。後は…ん〜っと、後片付けくらいで…。」
「あぁ、洗い物くらいは出来ます。」

 そう言って先生が、水が張ってあるシンクに、躊躇なく手を突っ込んだ。

「あ!先生!そこにはっ!!……っつ…。」
「え?!」

 シンクの奥には、使った包丁が、入れっぱなしになっていた。先生が、それに気付かずにケガをしてしまったら大変だと、先生を止めようと手を出したら、自分が指を切ってしまった。

「つぐもくん!大丈夫か?!」
「あ…はい。ちょっと、切っただけですから。」

 心配をかけまいと、先生に笑いかけてみたら、先生は逆にオロオロし始めた。

「いやいや!バイ菌が入ったら大変だ!すぐに洗って、消毒をしないと!」

 先生が、ボクの手を取って、水で傷口を流してくれた。
 背の高い先生は、ボクを後ろから抱き込むような姿勢で、そんなことをしてくれるものだから…。ボクは傷のことなどどうでも良くなってしまっていて、ただ、ドキドキしないように、自分をいさめようと必死だった。
 でも、そう思えば思うほど、どんどんドキドキして、何だか慌てふためいてしまう。

「先生、いえ。あの…。そんな、大袈裟です。あの…大丈夫ですから。」
「いやいや!包丁で手を切るのは、痛いんですよ。大丈夫?消毒薬はあるのかな?」
「あ…あります。あの…。その棚に、救急箱が…。」
「あぁ、あれだね?えっと…。」

 先生が、救急箱を持ってきて、ボクの傷口を消毒すると、絆創膏をまいてくれた。
 …一人でも、全然出来るのに。なのに、ボクはおとなしく、先生にされるがまま、そうしてもらった。

「痛くない?」
「あ…。はい。…あの。…先生って、いつもこうなんですか?」
「え?」
「いえ。学生さんがケガしたら、こうして、してあげるのかなって…。大変ですね。」

 大袈裟に心配してくれる先生に、冗談のつもりでそう言ったのに、先生は急に黙りこくって、何だか考え込んでしまった。

「先生?」
「あ…。いや、すまない。」
「いえ…。あの、ボク…。変なこと、言いましたか?ごめんなさい。」
「あ!いやいや!違うよ。…いや。…違うんだ。」

 先生は、そう言って、うなだれてしまった。

「先生?」
「…いや。ごめん、ごめん。…いや。…すごく、大切なことが、ね。わかったもので…。」
「え?」
「…ずっと、引っかかっていたことがあったんですけどね。…今のつぐもくんの言葉で、ようやくわかったんですよ。」
「え…。そう…なんですか?」
「ええ。…ありがとう、つぐもくん。」
「いえ…。」

 先生は、本当に嬉しそうに笑っていた。

更新日:2012-12-27 23:51:23

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