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 料理をあらかた食べ終えて、先生がまた、コーヒーを淹れてくれた。


「お庭が広いですね。手入れもなさるんですか?」
「あぁ。…これがね。とにかく一番の重労働なんですよ。」
「庭師さんを頼んだりは?」
「そこまでの庭でもないですしね。とりあえず、草むしりだのをすればいいわけですし。今の季節は、比較的緩やかですが、秋口は、休みのたんびに、落ち葉拾いを一日中やっていました。体がガタガタになりましたよ。」
「ふふっ。あ、じゃあ、来年はボクもお手伝いに来ますよ。」
「ほう。…では、焼き芋でもご馳走しましょう。」
「わぁ。」
「ふっ。そんなに、嬉しいですか?」
「はい!落ち葉で焼き芋とか…いいですね。」
「え…そう?キミにそう言われると、何だか、来年が楽しみになてくるから不思議だなぁ。」
「え…。」
「ふふっ。と、言うか。…君は、転勤などは、ないんですか?」
「あぁ、あったとしても、同じ鉄道内ですし。新入社員ですので、来年はまだ、あの駅にいると思います。」
「そうか…。でも『来年は』なんだね?」
「え?」
「…いや。キミがいないあの駅は…。どうなってしまうんだろうかと思ってね。」
「…先生。」
「あ…。いや、なんていうか…。駅員さんとこんなに仲良くなるとは、思いもしなかったからね。」
「…ボクもです。」


 一人のお客様と、こんなに仲良くさせていただけることになるなんて…。全然、思ってもみなかった。


「え?」
「お客様と駅員という立場で、こんなに良くしていただけることがあるとは、思っていませんでした。」
「え…。本当に?キミは、いつでもたくさんの人と話をしているから、こんなことは日常的なのかと…。」
「まさか!…こんなこと、先生だけですよ。まぁ、あんな風に、家に連れて行ったのも、先生が初めてですけど…。こんな風に、お礼をしてくださるかたは、初めてです。」
「そうなんだ…。」
「あの…。なので、気になさらなくて、いいんですよ。ボクの仕事として行ったことなんですから。」
「家に、酔った乗客を連れて行くのが?」
「え…。それは…。」
「ふふっ。…そうでしょう?あれは、駅員としてではなく、つぐもくん個人として、私を助けてくれた、と、言うことですよ。」
「あ…。」
「本当に、ありがとう。」
「…いいえ。」


 なんていうか…。本当に先生は…、素敵な人だ。


 その日は結局、夕方近くまで、先生のお宅にお邪魔していた。先生から、お薦めの小説を貸してもらい、美味しいというコーヒーの粉を、分けてもらった。
 家に帰って、夕飯を食べながら、先生にお礼のメールを打った。



『今日は、本当にありがとうございました。今、いただいたコーヒーを淹れて、飲んでいます。…沖田白』



 先生から、そのメールへの返事が来たのは、夜中の12:00少し過ぎだった。



『うまれてはじめてめーるというものをおくった。せつめいしょをよんで、つかいかたをしらべていて、へんじがおそくなってもうしわけない。こーひーはいつでもわけますよ。いちい』


「ぷっ。」


 全部平仮名とか…。本当に初めてメールを書いたんだろう。ボクが、先生の、生まれて初めてメールを送った相手になれたんだと思うと、何だかすごくテンションが上がった。
 説明書を片手に、メールを書いている先生の姿を想像して、すごく、嬉しくなった。先生が、ボクのために、そんな時間を費やしてくれたんだと思うと、感謝する気持ちがわいてきた。


『先生。返信、本当にありがとうございました。そんな風に、ボクのためにわざわざ調べてまで返信してくださったことに、本当に感謝致します。このメールに、返信はいりません。また、連絡させていただきます。…沖田白』



 そう書いて送ったのに、今度は、30分もしないで、返信が来た。



『調べ物は、得意なんです。大変なことではありませんでした。だから、返信が大変だろうからという理由で、メールをしないという選択をしないで頂きたい。 市井』


「え…。」


 何を言っているんだか…。先生って…何だか、可愛い人なのかもしれない。今度は漢字混じりになっているし、本当に調べ物は、得意なんだろう。なんといっても、大学の先生だしね。


『先生。ボクはそんなにマメにメールをするほうではありませんが、メールをしないということはありません。また、必ず連絡します。おやすみなさい。…沖田白』


 今度は、本当にすぐに返信が来た。


『安心しました。おやすみなさい。市井』



「ぷっ…。先生って…。」

 
 本当に…。なんだか、可愛らしいな。

更新日:2012-12-27 23:46:00

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