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小説

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東白①

 研修を終え、ボクは晴れて、駅員として、勤務することになった。
 主な勤務場所は、ここ「某駅」。
 すごく…なんていうか。穏やかな土地柄のところで。利用客も、通勤通学の時間帯でも、そんなに混雑することなく、乗れてしまうような所だ。


「シロ!」
「はい!」
「点検、頼んだよ?」
「あ、はい!わかりました。」


 ボクの名前は、「白」と書いて「つぐも」と読む。小さい頃から、あだ名は「シロ」だった。だから、この駅舎に配属になった時の最初の挨拶で、「シロと呼んでください」と言ったんだけど。本当に、皆「シロ」と呼んでくれていた。

 勤務し始めて、すでに3ヶ月がたつ。もう、真夏だ。はぁー、暑い。
 だけど…。
 そんな暑さを、全然感じさせないような人が、ホームの端に立っていた。

 いつもあんな風に、ホームの端で、上のほうを見ながら、タバコを吸っている。そこが喫煙所だから、そりゃあ当然なんだけど…。こんな暑い中、その人は何だか、いつでも涼しげだった。汗を拭っているような素振りも、見たことがないし。

「沖田くん、おはよう。」
「あ…。おはようございます!」

 駅を利用する人は、だいたいがもう顔馴染みだ。毎朝挨拶をしていると、こうして名前を覚えて、声を掛けてくれる人もいる。ボクには、とっても嬉しいことだった。

「今日も、暑いねぇ。」
「はい。本当に。…もうすぐ、電車が来ますから、涼んでくださいね。」
「あはははは。最近じゃ〜電車もそうそう涼しくないよ?」
「あ…。すいません。節電傾向なものですから…。」
「ま。外よりは、よっぽど涼しいけどね。」
「はい。」
「じゃあ、頑張って。」
「ありがとうございます!」

 ボクは、ホームのゴミを拾いながら、喫煙所まで向かった。

「おはようございます。」
「…。」

 軽く会釈をしてくれた。いつも、そうだ。この人は、挨拶をすると、軽く会釈で答えてくれる。サラリーマンかなぁ?たいがい、この7:45発の電車に乗って行く。帰りは、いつもバラバラで、終電の日もあれば、19:00頃に帰ってくる日もあった。
 
 どうしてこの人のことを、こんなに気にしてるんだろうって、自分で不思議に思った時があった。だって、何だかこの人は、この駅に似つかわしくないような雰囲気があるからなんだ。
 この穏やかな駅には、似つかわしくないくらい、この人はいつもお洒落な格好をしている。背が高くて、スラリとしていて、メガネをかけているからか、とても知的な印象を受ける。
 いつも分厚いカバンを持っていて、タバコを吸いながら、小説を読んでは、ちょくちょく上を向くのが、とても印象的な人だった。
 一言で言えば「カッコイイ」人なんだ。こういう穏やかなのんびりした感じの駅だから、余計にそう感じるのかもしれないけど…。
 きっと、もっと都会の駅に立っていたとしても、目立つ人じゃないだろうかと思うんだ。


 秋口になって、ボクが仕事にも、人間関係にも慣れた頃だった。
 ボクは、その日、日勤で。仕事が、18:00上がりだった。
 帰り支度をして、駅舎を出ると、ちょうど電車が入って来た。何人か、パラパラと降りて来た中に、あの人を見つけた。歩きながら、小説を、分厚いカバンに入れているところだった。

「あ…。」

 何だか、ボクはちょっと嬉しい気分になっていた。その人が歩いて行く方向は、ボクの行く方向と一緒だったから。駅舎から、歩いて5分の自分のアパートまで、なんとはなしに、その人の後ろをついて歩いて行った。
 すぐに、ボクのアパートには着いてしまった。その人は、更にスタスタと歩いて行く。
 
「…。」

 ボクは…。どうしてだか、アパートには入らず、何となくその人の後ろを付いて行った。どこに住んでいるんだろう?30代くらい、かな?結婚してるんだろうか?付いて行きながら、そんなことを考えていた。
 畑が並ぶ道を、その人は曲がって行った。

「うわ…。」

 そこには、大きな家が建っていた。あの道を入ったら、あの家しかない。家に入ったのが、電気が点いたことでわかった。あれ?まさか、一人暮らし?あんな大きな家に?…まさかね。

 あ…。何だか…。何をしてるんだろう?ボク…。
 足早に、その場を去った。こんな風に、乗客一人を気にするとか…。これが女の子だったら、犯罪者じゃないの?相手は、大人の男の人だから…別に…怪しくない、よね?…逆に、怪しい?…とにかく、帰ろう。


更新日:2012-12-26 19:53:05