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第9回(2013/1/24)
LIFE 第1章
第9話
……………………
………………
…………
「はーいそれじゃあ、自己紹介どうぞー!」
「は、はじめまして、衛藤、杏子、です……よろしく、おねがいします……」
ぱちぱちぱち……
やる気の無さそうな気怠い感じの拍手が教室中に巻き起こった。それでも私は、恥ずかしさを押し殺してどうにかこうにかかまずに自己紹介を言い切る事ができた。
「はいはい、みなさん。転校生が珍しくて訊きたい事が山ほどあるのもわかりますが、質問タイムは休み時間にしてくださいね? これから朝のSHR始めますよ!」
私の事を忘れているんじゃないかと思えてくる様なホームルームの始め方だったが、そういう訳でもなかったらしい。そもそも、担任が転校生を蔑ろにしてまでSHRを進めるなんて有り得ない。
「衛藤さん? 衛藤さんの席はあそこ、窓際の一番後ろが空いていますので、そこに座ってください」
「あ、はい!」
今は春という事もあってか、示された先は陽気が差しとても暖かな席だった。授業中と言えど、ちょっとでも気が緩めば睡魔に身を委ねてしまいそうである。
父の仕事の関係上、転校という出来事はこれまでの14年間の人生でも何度かあったのだが、それでも転校初日の空気には慣れそうもない。
自己紹介をかまなかったとは言っても、詰まりながらだったしなぁ……
拍手がやる気が無さそうだったのも、そのせいだったのかも知れない。
いや、あるいは、私の被害妄想?
どちらにしろ、新しいクラスでのスタートは最高の物とは言い難い。
先生に言われた席に着き、黒板に目を戻すと、先生がこれからの事についてあれやこれやと連絡事項を告げている。
私、この新しいクラスで上手くやっていけるのかなぁ……
先行きが不安で仕方無かった。
(ヒソヒソ……ねえ、衛藤さん)
隣から声が聞こえた。
隣の席の女の子……ショートカットの可愛らしい女の子だった。私なんかとは比べものにならない、愛らしい顔。こういうのを、見目麗しいって言うんだっけ?
どうやら、その娘が、私に話しかけてきたらしい。
先生の目を盗む為、傾聴していないと聞こえない様な小声で。
(ヒソヒソ……わ、私?)
(ヒソヒソ……そうだよ。衛藤さん以外にそこにいないじゃん)
おかしな事言う~、とその娘は小さく笑った。笑顔も可愛らしかった。
そうか、そうだよね、この席は私の席だもんね。
窓の外に席がある訳じゃあるまいし、私に話しかけているに決まっているよね。
(ヒソヒソ……な、なに?)
(ヒソヒソ……私からも自己紹介。私は、相馬恵美。よろしく衛藤さん)
そうヒソヒソと言って相馬さんはにっと笑んだ。
(ヒソヒソ……こ、こちらこそ、よろしくおねがいします、相馬さん)
(ヒソヒソ……うん、これから仲良くしようね。私達、これから、友達って事で)
(ヒソヒソ……は、はい! よろしくお願いします! ありがとうございます!)
(ヒソヒソ……何でお礼言うの? クラスメートだから当たりまえだよ~)
そう言って相馬さんはまた淡く微笑む。
この時間のヒソヒソ話はこれで終わったのだが、運良く先生に私達の私語が見つかる事は無かった。
良かった……昨日とかはどうなるのかなって思ってたけど(ついでに言えば新しい環境で友達が作れるものなのか不安で中々昨日は寝つけなかったんだけど)、こんなに早くまだ一人だけど、友達を作る事ができた……
私の心中は安堵でいっぱいだった。
何度も転校を繰り返しはしたけれど、その度に新しい環境に慣れるまで時間がかかって、半年程経ってやっと皆とも話せる様になってきた……と思ったらまた新しい土地に引っ越す……という事が今まで多かったからだ。
慣れたとしても、そこから発展させる事もできずにさようなら、って事ばかりだったのだ。
最初の友達を作るまで、一か月程クラス内で孤立していた事もある。
私は人と接するのが苦手なのだ、と自覚するのにそう時間はかからなかった。
今でもその認識は変わらないが、こうして今友達を作る事ができた。
このクラスに入って、わずか10分足らずで。
新記録であり、大記録である、私の中では。
良かった……このクラスでは、けっこう上手くやっていけるかも知れない……
今度こそ、次の父の転勤まで期間があります様に。
できるだけ皆と仲良くなれます様に。
第9話
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「はーいそれじゃあ、自己紹介どうぞー!」
「は、はじめまして、衛藤、杏子、です……よろしく、おねがいします……」
ぱちぱちぱち……
やる気の無さそうな気怠い感じの拍手が教室中に巻き起こった。それでも私は、恥ずかしさを押し殺してどうにかこうにかかまずに自己紹介を言い切る事ができた。
「はいはい、みなさん。転校生が珍しくて訊きたい事が山ほどあるのもわかりますが、質問タイムは休み時間にしてくださいね? これから朝のSHR始めますよ!」
私の事を忘れているんじゃないかと思えてくる様なホームルームの始め方だったが、そういう訳でもなかったらしい。そもそも、担任が転校生を蔑ろにしてまでSHRを進めるなんて有り得ない。
「衛藤さん? 衛藤さんの席はあそこ、窓際の一番後ろが空いていますので、そこに座ってください」
「あ、はい!」
今は春という事もあってか、示された先は陽気が差しとても暖かな席だった。授業中と言えど、ちょっとでも気が緩めば睡魔に身を委ねてしまいそうである。
父の仕事の関係上、転校という出来事はこれまでの14年間の人生でも何度かあったのだが、それでも転校初日の空気には慣れそうもない。
自己紹介をかまなかったとは言っても、詰まりながらだったしなぁ……
拍手がやる気が無さそうだったのも、そのせいだったのかも知れない。
いや、あるいは、私の被害妄想?
どちらにしろ、新しいクラスでのスタートは最高の物とは言い難い。
先生に言われた席に着き、黒板に目を戻すと、先生がこれからの事についてあれやこれやと連絡事項を告げている。
私、この新しいクラスで上手くやっていけるのかなぁ……
先行きが不安で仕方無かった。
(ヒソヒソ……ねえ、衛藤さん)
隣から声が聞こえた。
隣の席の女の子……ショートカットの可愛らしい女の子だった。私なんかとは比べものにならない、愛らしい顔。こういうのを、見目麗しいって言うんだっけ?
どうやら、その娘が、私に話しかけてきたらしい。
先生の目を盗む為、傾聴していないと聞こえない様な小声で。
(ヒソヒソ……わ、私?)
(ヒソヒソ……そうだよ。衛藤さん以外にそこにいないじゃん)
おかしな事言う~、とその娘は小さく笑った。笑顔も可愛らしかった。
そうか、そうだよね、この席は私の席だもんね。
窓の外に席がある訳じゃあるまいし、私に話しかけているに決まっているよね。
(ヒソヒソ……な、なに?)
(ヒソヒソ……私からも自己紹介。私は、相馬恵美。よろしく衛藤さん)
そうヒソヒソと言って相馬さんはにっと笑んだ。
(ヒソヒソ……こ、こちらこそ、よろしくおねがいします、相馬さん)
(ヒソヒソ……うん、これから仲良くしようね。私達、これから、友達って事で)
(ヒソヒソ……は、はい! よろしくお願いします! ありがとうございます!)
(ヒソヒソ……何でお礼言うの? クラスメートだから当たりまえだよ~)
そう言って相馬さんはまた淡く微笑む。
この時間のヒソヒソ話はこれで終わったのだが、運良く先生に私達の私語が見つかる事は無かった。
良かった……昨日とかはどうなるのかなって思ってたけど(ついでに言えば新しい環境で友達が作れるものなのか不安で中々昨日は寝つけなかったんだけど)、こんなに早くまだ一人だけど、友達を作る事ができた……
私の心中は安堵でいっぱいだった。
何度も転校を繰り返しはしたけれど、その度に新しい環境に慣れるまで時間がかかって、半年程経ってやっと皆とも話せる様になってきた……と思ったらまた新しい土地に引っ越す……という事が今まで多かったからだ。
慣れたとしても、そこから発展させる事もできずにさようなら、って事ばかりだったのだ。
最初の友達を作るまで、一か月程クラス内で孤立していた事もある。
私は人と接するのが苦手なのだ、と自覚するのにそう時間はかからなかった。
今でもその認識は変わらないが、こうして今友達を作る事ができた。
このクラスに入って、わずか10分足らずで。
新記録であり、大記録である、私の中では。
良かった……このクラスでは、けっこう上手くやっていけるかも知れない……
今度こそ、次の父の転勤まで期間があります様に。
できるだけ皆と仲良くなれます様に。
更新日:2013-01-27 20:43:12