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第8回(2013/1/13)
LIFE 第1章
第8話
全ての試験を余裕で終え、放課となる。この調子なら成績はまずまずと言ったところだろう。一睡もしていないにしては上出来だ。
午後5時。校内1階の奥にある自動販売機の所まで俺は来ていた。硬貨を取り出し、ブラックの缶コーヒーを買う。学生寮内にも自動販売機はあるのだが、俺が愛飲している缶コーヒーはここでしか買えないのである。
晩飯までにはまだ時間がある。笹原は自室か俺の部屋にこもって寝ているか漫画を読んでいるかどちらかだろう。
ゴクゴク……
……苦い。
いつもはここまで苦く感じないのに……
今日はどうしてこうも苦く感じるのだろうか……
壁に背を預けて缶コーヒーを完飲する。
さて、これからどうしたものかな……
今晩も街に出てみるか……?
だとしても何か策謀を講じてからではないと……
笹原は言っていた。――自分はアホだから、作戦を考えるとするなら俺がやった方が良いと。
卑屈な見解だが、確かに俺の方があいつより良策を考えつく自信ならある。
今までだって、何か面倒事が勃発すれば俺が作戦を考え、笹原が主に実行してきた。
そういった実績があろうとも、今度ばかりは何をどうすればいいのかわからん。
頼られているというのはわかるし、嬉しい限りだが……
考えろ、考えろ。頭脳をフル稼働させろ。普段勉強にも大して使わない頭脳だ。こういった場面でも使えなければ本当に無駄細胞だ。どこかのアホよりなお始末が悪い。
根本的な解決を図るなら、もちろん衛藤を改心させる事。
そんな事が可能なのか……?
想像もできない。
あれだけ人格が歪みきっている女を更正させる事が、できるのか?
俺はあいつの事を殆ど何も知らないと言っていい。
だからと言ってあいつの事を調べ上げたとしても、何か有用な情報が掘り出せるものなのか?
……………………
……考えているばかりでも時間の空費にしかならないか。
ぼうっと考え呆けているよりは、何か行動を起こした方が事は早いか?
「……朋也さん」
ふん、と面を上げる。
そこにいたのはつかさだった。
笑顔は、見られなかった。
「……おまえも自販機に用か?」
「……はい」
「……奢ってやろうか?」
「……そういう事は、しない主義だったのではないのですか?」
「……そうだったな」
何を口走っているんだろう……アホか、俺は。
「……朝も昼もお見かけしたのですが、凄いケガですよね……」
「……大した事じゃねえさ。笹原とちょっと揉めた」
「……そうなんですか……」
俺の脇をすり抜け、つかさはお茶を買っていた。
俺の隣に来て、俺同様に壁に背を預ける。
「朋也さん」
「……なんだ」
「喧嘩はよくないですよ」
「……そうだな。……喧嘩なんてしなくてもいいのなら、」
それはどんなに良い事なんだろうな。
俺はとうとう言葉にできなかった。
喧嘩の無い世界なんて有り得ない。
人間が地球上に住んでいる限り、争いが絶える事なんて無い。
衛藤とだって、仲良くやれれば、どんなに良い事か。
でもあいつとはもう散々な揉め事を起こしちまった。
あいつと喧嘩せずに済む道なんて、もう有り得ない。
「笹原さんと喧嘩したんですか」
「まあな」
「本当の相手は誰ですか」
空き缶を捨てようとした俺の手が、硬直する。
「何を言ってるんだ?」
「もしかして相手は、衛藤さんですか?」
「……………………」
「……………………」
「…………何を言っているのかわからないな」
「……とぼけているつもりなんでしょうか」
「……さあ、何の事かわからないな」
「……そのケガは、衛藤さんにやられたものなのではないですか?」
「……どうしてそう思うんだ?」
「……ごめんなさい」
なぜ、謝る。何を謝る事があると言うんだ。
第8話
全ての試験を余裕で終え、放課となる。この調子なら成績はまずまずと言ったところだろう。一睡もしていないにしては上出来だ。
午後5時。校内1階の奥にある自動販売機の所まで俺は来ていた。硬貨を取り出し、ブラックの缶コーヒーを買う。学生寮内にも自動販売機はあるのだが、俺が愛飲している缶コーヒーはここでしか買えないのである。
晩飯までにはまだ時間がある。笹原は自室か俺の部屋にこもって寝ているか漫画を読んでいるかどちらかだろう。
ゴクゴク……
……苦い。
いつもはここまで苦く感じないのに……
今日はどうしてこうも苦く感じるのだろうか……
壁に背を預けて缶コーヒーを完飲する。
さて、これからどうしたものかな……
今晩も街に出てみるか……?
だとしても何か策謀を講じてからではないと……
笹原は言っていた。――自分はアホだから、作戦を考えるとするなら俺がやった方が良いと。
卑屈な見解だが、確かに俺の方があいつより良策を考えつく自信ならある。
今までだって、何か面倒事が勃発すれば俺が作戦を考え、笹原が主に実行してきた。
そういった実績があろうとも、今度ばかりは何をどうすればいいのかわからん。
頼られているというのはわかるし、嬉しい限りだが……
考えろ、考えろ。頭脳をフル稼働させろ。普段勉強にも大して使わない頭脳だ。こういった場面でも使えなければ本当に無駄細胞だ。どこかのアホよりなお始末が悪い。
根本的な解決を図るなら、もちろん衛藤を改心させる事。
そんな事が可能なのか……?
想像もできない。
あれだけ人格が歪みきっている女を更正させる事が、できるのか?
俺はあいつの事を殆ど何も知らないと言っていい。
だからと言ってあいつの事を調べ上げたとしても、何か有用な情報が掘り出せるものなのか?
……………………
……考えているばかりでも時間の空費にしかならないか。
ぼうっと考え呆けているよりは、何か行動を起こした方が事は早いか?
「……朋也さん」
ふん、と面を上げる。
そこにいたのはつかさだった。
笑顔は、見られなかった。
「……おまえも自販機に用か?」
「……はい」
「……奢ってやろうか?」
「……そういう事は、しない主義だったのではないのですか?」
「……そうだったな」
何を口走っているんだろう……アホか、俺は。
「……朝も昼もお見かけしたのですが、凄いケガですよね……」
「……大した事じゃねえさ。笹原とちょっと揉めた」
「……そうなんですか……」
俺の脇をすり抜け、つかさはお茶を買っていた。
俺の隣に来て、俺同様に壁に背を預ける。
「朋也さん」
「……なんだ」
「喧嘩はよくないですよ」
「……そうだな。……喧嘩なんてしなくてもいいのなら、」
それはどんなに良い事なんだろうな。
俺はとうとう言葉にできなかった。
喧嘩の無い世界なんて有り得ない。
人間が地球上に住んでいる限り、争いが絶える事なんて無い。
衛藤とだって、仲良くやれれば、どんなに良い事か。
でもあいつとはもう散々な揉め事を起こしちまった。
あいつと喧嘩せずに済む道なんて、もう有り得ない。
「笹原さんと喧嘩したんですか」
「まあな」
「本当の相手は誰ですか」
空き缶を捨てようとした俺の手が、硬直する。
「何を言ってるんだ?」
「もしかして相手は、衛藤さんですか?」
「……………………」
「……………………」
「…………何を言っているのかわからないな」
「……とぼけているつもりなんでしょうか」
「……さあ、何の事かわからないな」
「……そのケガは、衛藤さんにやられたものなのではないですか?」
「……どうしてそう思うんだ?」
「……ごめんなさい」
なぜ、謝る。何を謝る事があると言うんだ。
更新日:2013-01-24 20:23:37