• 9 / 22 ページ

酔狂な楽器店

「じゃ、行こうか。そんなに遠くないから」

紀美はベンチから立ち上がり、ギターケースを持ち直す。
梓もそれを追うように立ち上がり、ギターケースを背負う。

梓のギターケースはナイロン生地で出来たソフトケースタイプ、いわゆるギグバッグだ。
それに対し紀美のギターケースはトーレックス張りのハードケース。
ケースの隅には金色のGibsonロゴが入っている。

「紀美先輩、そのギターは?」
「これ?去年の暮れにボーナスはたいて買ったんだ」
「レスポールですか?」
「うん、黒いレスポール・カスタム」
「ブラックビューティーですか?」
「そうそう、ヒストリックコレクションのね・・・ん?意外そうな顔だなぁ?」
「紀美先輩って、B・C・リッチの変形ギターってイメージが有ります」
「ああ、よくそう言われる」

笑いながら紀美は続ける。

「さわ子にDEATH DEVILの再結成を持ち掛けていた時、唯ちゃんのスタンダードをちょっと弾かせてもらったんだけど」
「ええ、覚えています。おでんの屋台ででしたよね」
「うん、その時に『あぁ、レスポールいいなぁ』って思ってね・・・そしたら中古で綺麗なのが見つかったんだけど・・・」
「だけど?」
「ここ最近ちょっと調子が悪い・・・だから調整に出そうと思ってね」
「え?楽器屋さんはこっちの方角じゃないんじゃ?」
「昔から知ってる人がやってるショップが有るんだ。キャリアの有る人だし、色々面白い話も聞けると思うよ」

更新日:2012-11-01 23:10:20

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook