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ミク~無垢なる天使~
「開門、開門!」
黄の国の城下街の東西を挟む、二本の大河。その東側にかかる大橋に設けられた大門が、重い音を立てて開かれた。
その向こう側には、緑の国の旗を掲げ、大公家の紋章をあしらった鎧を身につけた騎馬衛兵たちと、その彼らに守られた何台もの豪奢な馬車の列。
門の内側、黄の国の側にも騎馬隊が整然と並んでいた。こちらは黄の国の旗を掲げ、鎧には王家の紋章があしらわれている。
緑の国と、黄の国、互いの騎馬隊からそれぞれの長が下馬し、門の下に進み出た。
「これなるは緑が国、第一公女ミク様のご行列である。黄国王からのお招きに応じ、まかりこした」
「遠路はるばるご苦労であった。我ら黄国王親衛隊、これよりご行列に同道し、陛下のもとへ案内いたす」
緑と黄の旗が並びたち、大公家と王家の紋章を煌めかせながら、華々しく豪奢な行列が橋を渡り、城下街へと入った。
黄の国の街並みは古い。
河川にはさまれた決して広くない土地に新旧の建物がひしめき合い、さながら迷路のような様相を呈している。
王宮は、東西の大河の上流側、二本の河川が最も狭まった間の丘陵の上にあり、街のどの場所からもその姿を望むことができた。
しかし街の最奥部に位置するだけに、そこへ至る道程は難解を極めた。
緑の国の行列に黄国王親衛隊が同道するのも、外国の一行に対する護衛や監視に加え、言葉通り“案内”しなければとても目的地にたどり着けないという事情があった。
黄国王親衛隊は、街の中でも比較的古い道を選んで先導した。
古い通りは、街が発展して混み合う前から存在しているだけに、騎兵と馬車が並んで通れる位に広く、また、王宮への道もさほど複雑ではない。
石畳の上を、いくつもの馬蹄と車輪が音を鳴らし、それが街中にこだまする。
街には他に音もなく、折からの曇り空の下、城下は息苦しささえ覚えるような重い沈黙に包まれていた。
通りを歩く人々には活気が感じられず、親衛隊と馬車の華美な行列が現れると、その輝きを恐れて嫌悪するかのように、通りから縦横無尽に伸びる狭い路地へと逃げるように姿を隠していった。
街の人々が消えていった路地というのは、それこそ城下街の隅々にまで血管のように張り巡らされた、まさに迷路だった。
そこは細く、曲がりくねり、そして広く古い通りとは比べ物にならないほどの、濃密な人の気配で溢れかえっていた。
活気とは違う、一種の諦めと倦怠、そこから発する負の感情が、華やかな行列が広い通りを走り抜けていくたびに路地から風となってどっと吹き出してくるようだった。
しかし行列はそんなものを気にも留めず、その輝ける威光をもって負の風を蹴散らし、王宮へと向かっていく。
行き場をなくした風はまた細い路地へと吸い込まれ、血管のような迷路によって街のすみずみにまで行き渡っていった。
黄の国の城下街の東西を挟む、二本の大河。その東側にかかる大橋に設けられた大門が、重い音を立てて開かれた。
その向こう側には、緑の国の旗を掲げ、大公家の紋章をあしらった鎧を身につけた騎馬衛兵たちと、その彼らに守られた何台もの豪奢な馬車の列。
門の内側、黄の国の側にも騎馬隊が整然と並んでいた。こちらは黄の国の旗を掲げ、鎧には王家の紋章があしらわれている。
緑の国と、黄の国、互いの騎馬隊からそれぞれの長が下馬し、門の下に進み出た。
「これなるは緑が国、第一公女ミク様のご行列である。黄国王からのお招きに応じ、まかりこした」
「遠路はるばるご苦労であった。我ら黄国王親衛隊、これよりご行列に同道し、陛下のもとへ案内いたす」
緑と黄の旗が並びたち、大公家と王家の紋章を煌めかせながら、華々しく豪奢な行列が橋を渡り、城下街へと入った。
黄の国の街並みは古い。
河川にはさまれた決して広くない土地に新旧の建物がひしめき合い、さながら迷路のような様相を呈している。
王宮は、東西の大河の上流側、二本の河川が最も狭まった間の丘陵の上にあり、街のどの場所からもその姿を望むことができた。
しかし街の最奥部に位置するだけに、そこへ至る道程は難解を極めた。
緑の国の行列に黄国王親衛隊が同道するのも、外国の一行に対する護衛や監視に加え、言葉通り“案内”しなければとても目的地にたどり着けないという事情があった。
黄国王親衛隊は、街の中でも比較的古い道を選んで先導した。
古い通りは、街が発展して混み合う前から存在しているだけに、騎兵と馬車が並んで通れる位に広く、また、王宮への道もさほど複雑ではない。
石畳の上を、いくつもの馬蹄と車輪が音を鳴らし、それが街中にこだまする。
街には他に音もなく、折からの曇り空の下、城下は息苦しささえ覚えるような重い沈黙に包まれていた。
通りを歩く人々には活気が感じられず、親衛隊と馬車の華美な行列が現れると、その輝きを恐れて嫌悪するかのように、通りから縦横無尽に伸びる狭い路地へと逃げるように姿を隠していった。
街の人々が消えていった路地というのは、それこそ城下街の隅々にまで血管のように張り巡らされた、まさに迷路だった。
そこは細く、曲がりくねり、そして広く古い通りとは比べ物にならないほどの、濃密な人の気配で溢れかえっていた。
活気とは違う、一種の諦めと倦怠、そこから発する負の感情が、華やかな行列が広い通りを走り抜けていくたびに路地から風となってどっと吹き出してくるようだった。
しかし行列はそんなものを気にも留めず、その輝ける威光をもって負の風を蹴散らし、王宮へと向かっていく。
行き場をなくした風はまた細い路地へと吸い込まれ、血管のような迷路によって街のすみずみにまで行き渡っていった。
更新日:2012-11-04 17:41:51