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カイト、リン~街角の歌声~
カイトが、リンを一時的にとはいえメイコの庇護においたのは、ある意味危険な賭けでもあった。
しかし、心身ともに傷つきかけた少女をかくまうのに、これほど安全な場所もなかった。
それに、メイコがどんなに優れた頭脳の持ち主でも、さすがに国王の顔を間近に見たことが無いことをカイトは知っている。
まして、その双子の姉が街を忍び歩いているなどとは想像もしないだろう。
そして何より、メイコは革命組織の裏の指導者である以前に、やはり慈悲深いシスターであると、カイトは信じていた。
彼女は、自分を頼ってきた無力な少女を見捨てるようなことは、絶対にしない……
だが、メイコからリンを送り届けるよう頼まれたとき、カイトは背筋に寒気を覚えた。
リンを送ることが嫌だったわけではない。
別にメイコに言われずとも、初めからそうするつもりだったし、そのためにわざわざリンのマントを引き取って教会に戻ってきたのだ。
しかし、メイコから、
「このお方を……」
と言われたとき、カイトは彼女の恐ろしさを改めて思い知った。
おそらく、
いや、間違いなく、メイコはリンの正体に気づいている。
リン自身が正体を明かした様子は無い。
メイコは、リンの振る舞いや雰囲気、そして言葉の端々の断片的な情報から気づいたに違いない。
メイコとは、それほどの洞察力を持った女だった。
それゆえに果たして、カイトにリンを送らせるというメイコの意図が、修道女としてのものか、それとも革命家としてのものか、それが図りかねた。
しかしどちらにしろ、カイトは自分がメイコの意図のままに動かされていることを自覚していた。
メイコにとって自分はもはや姉弟同然の幼馴染ではなく、革命に至るまでの手駒のひとつに過ぎないのだろう、と。
革命によってこの国の人々が救われるのならそれでも構わない、と覚悟していた。
しかしやはり、自分の意図はメイコにすべて見透かされているのに、自分は彼女の意図を図りきれないのは、幼馴染として釈然としないものがあった。
そのメイコに比べれば……
と、カイトは思う。
このリンという少女の意図を図るのはずいぶんと簡単だった。
お忍びでこの国の現状を調査しにきた。
おそらく、そんなところだろう。
ただ、あの少年なら双子の姉ではなく、自分自身で赴いてくるのではないだろうか?
それぐらいの気概は持っていそうな少年だった、とカイトは思った。
そして、そこまで思ったところで、カイトは自分が軽い失望感を覚えていることに気がついた。
なぜ、ここにいるのがレンではないのか、と。
レンにこの街の、この国の現状をその目で見てほしかった。
そして、国王としてどうあるべきか、その考えを聞いてみたかった。
レンに、もう一度逢いたかった。
カイトは足を止めて、振り返った。
少し後ろを歩く、リンを見る。
「……どうかしましたか?」
リンも足を止め、怪訝そうな表情でカイトを見つめ返す。
「………」
カイトはしばらく無言のまま、リンをまっすぐに見つめ続けた。
彼の端正な顔立ちはどこか寂しさをはらんでさらに精悍になり、
その青い瞳は氷のような冷たい光をたたえながら、
リンの目をまっすぐに射すくめていた。
ゾクリ、とリンは背筋に冷たいものを感じた。
それは恐ろしさと同時に、喜びと興奮がない交ぜになった、これまでに経験したことの無い感情だった。
「な……なんですか。何か、言ってください…っ」
リンが自分の感情に戸惑いながらそれでもやっとのことでそう言うと、
カイトは、
「……いや、なんでもない。すまなかった」
そう言って、ふっと目をそらした。
リンは、再び前を向いて歩き出したカイトの背中を追いながら、彼の視線から逃れられたことに安堵した。
けれど、その一方で物足りなさをも感じていた。
もう少し見つめられていたかった……
そんな思いさえ抱いてしまったことに、リンは驚いた。
そんなときに、
「そういえば」
とカイトから声をかけられ、リンの心臓は跳ね上がった。
「は、はいっ」
しかし、心身ともに傷つきかけた少女をかくまうのに、これほど安全な場所もなかった。
それに、メイコがどんなに優れた頭脳の持ち主でも、さすがに国王の顔を間近に見たことが無いことをカイトは知っている。
まして、その双子の姉が街を忍び歩いているなどとは想像もしないだろう。
そして何より、メイコは革命組織の裏の指導者である以前に、やはり慈悲深いシスターであると、カイトは信じていた。
彼女は、自分を頼ってきた無力な少女を見捨てるようなことは、絶対にしない……
だが、メイコからリンを送り届けるよう頼まれたとき、カイトは背筋に寒気を覚えた。
リンを送ることが嫌だったわけではない。
別にメイコに言われずとも、初めからそうするつもりだったし、そのためにわざわざリンのマントを引き取って教会に戻ってきたのだ。
しかし、メイコから、
「このお方を……」
と言われたとき、カイトは彼女の恐ろしさを改めて思い知った。
おそらく、
いや、間違いなく、メイコはリンの正体に気づいている。
リン自身が正体を明かした様子は無い。
メイコは、リンの振る舞いや雰囲気、そして言葉の端々の断片的な情報から気づいたに違いない。
メイコとは、それほどの洞察力を持った女だった。
それゆえに果たして、カイトにリンを送らせるというメイコの意図が、修道女としてのものか、それとも革命家としてのものか、それが図りかねた。
しかしどちらにしろ、カイトは自分がメイコの意図のままに動かされていることを自覚していた。
メイコにとって自分はもはや姉弟同然の幼馴染ではなく、革命に至るまでの手駒のひとつに過ぎないのだろう、と。
革命によってこの国の人々が救われるのならそれでも構わない、と覚悟していた。
しかしやはり、自分の意図はメイコにすべて見透かされているのに、自分は彼女の意図を図りきれないのは、幼馴染として釈然としないものがあった。
そのメイコに比べれば……
と、カイトは思う。
このリンという少女の意図を図るのはずいぶんと簡単だった。
お忍びでこの国の現状を調査しにきた。
おそらく、そんなところだろう。
ただ、あの少年なら双子の姉ではなく、自分自身で赴いてくるのではないだろうか?
それぐらいの気概は持っていそうな少年だった、とカイトは思った。
そして、そこまで思ったところで、カイトは自分が軽い失望感を覚えていることに気がついた。
なぜ、ここにいるのがレンではないのか、と。
レンにこの街の、この国の現状をその目で見てほしかった。
そして、国王としてどうあるべきか、その考えを聞いてみたかった。
レンに、もう一度逢いたかった。
カイトは足を止めて、振り返った。
少し後ろを歩く、リンを見る。
「……どうかしましたか?」
リンも足を止め、怪訝そうな表情でカイトを見つめ返す。
「………」
カイトはしばらく無言のまま、リンをまっすぐに見つめ続けた。
彼の端正な顔立ちはどこか寂しさをはらんでさらに精悍になり、
その青い瞳は氷のような冷たい光をたたえながら、
リンの目をまっすぐに射すくめていた。
ゾクリ、とリンは背筋に冷たいものを感じた。
それは恐ろしさと同時に、喜びと興奮がない交ぜになった、これまでに経験したことの無い感情だった。
「な……なんですか。何か、言ってください…っ」
リンが自分の感情に戸惑いながらそれでもやっとのことでそう言うと、
カイトは、
「……いや、なんでもない。すまなかった」
そう言って、ふっと目をそらした。
リンは、再び前を向いて歩き出したカイトの背中を追いながら、彼の視線から逃れられたことに安堵した。
けれど、その一方で物足りなさをも感じていた。
もう少し見つめられていたかった……
そんな思いさえ抱いてしまったことに、リンは驚いた。
そんなときに、
「そういえば」
とカイトから声をかけられ、リンの心臓は跳ね上がった。
「は、はいっ」
更新日:2013-12-16 00:59:21