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「おい、こんな場所でやっちまって大丈夫か」
「警備隊はここには来ねえし、奴らは行商以外狙わねえ。早く身ぐるみを剥げ」
「本当に金持ってるんだろうな」
「持ってる。コイツ、物を言い値で買ったからな。――懐だ」
男の一人が真正面に立ち、リンの胸元を掴み、引き裂いた。
「―――っ!!??」
悲鳴を上げ、暴れようにも男たちの力に抵抗出来なかった。
男の手が無遠慮に胸元に入り込み、金の入った袋を奪っていく。
「おい、こいつどうする」
「犯したきゃ、やれ。俺は先に金勘定だ」
リンの耳元に、男の荒々しい息が吐きつけられた。
そのまま人形のように持ち上げられ、今度は道路に仰向けに転がされる。
目の前に、リンに覆いかぶさろうとする男の大きな影があった。
「!!???」
猿轡の奥で叫ぶリンの両腕を押さえつけ、その両足のあいだに膝を入れて、無理やりこじ開けられる。
男の体重に押しつぶされ、身動きができないリンの胸元に男の手が這い回り、その小さな乳房を乱暴に掴まれた。
「――――っ!!!!!!!」
嫌悪感と、
恐怖感と、
激しい痛みに、
リンの目の奥が真っ赤になった。
―怖い
―怖い
―怖い
―怖い
―助けて…レン………
―助けて……レオ………
―助けて………アル………
―助けて…………ルカ………
―助けて………………カイト……
リンに伸し掛かっていた圧力が、突然消えた。
リンを襲っていた男が、誰かにその髪の毛を掴まれ、引き上げられるがままに仰け反り、大きく背後へと倒れ込もうとしていた。
男の髪を掴んでいたのは、細身の優男。
髪を掴まれた痛みに野獣のような咆哮をあげながら暴れる男を、その優男は平然と、片手で投げ飛ばした。
ぎゃっ、と悲鳴を上げて転がった男の有様に、他の男たちが殺気立った。
「誰だッ!?」
問うた男の手には、既に短刀が握られていた。
「……カイト」
短く答えた優男の長い脚が、差し向けられていた短刀を蹴り飛ばす。
一瞬の早業だった。
優男――カイトの身体がダイナミックに回転し、二撃目の蹴りの爪先が、男のあご先を掠めた。
たったそれだけ。
だが、それだけで男は激しい脳震盪を起こし、足元から崩れ落ちた。
カイトは軽いステップから、わずかに身体を横に傾ける。
背後から襲いかかって来た別の男の一撃が、目標を見失って、虚しく宙を切った。
勢い余って前かがみになってしまった男の首筋に、カイトの手刀が振り下ろされ、二人目の意識を刈る。
リンを襲った男は残り二人だった。
その内の一人は、最初にカイトに引きずり倒されていて、瞬きする間に仲間二人を倒したカイトの姿に呆然としたまま座り込んでいた。
最後の一人は、近くに居たリンに目を向け、人質にしようと考えたのか、彼女に向かって手を伸ばそうとしたが、
「下らぬことは、考えぬ方が身のためだぞ」
聴く者の心底を冷え込ませ揺さぶるような冷徹な声に、男は震え上がって、リンに伸ばしかけた手を引っ込めた。
カイトは倒した男から金の袋を拾い上げ、そして残した男二人に告げた。
「仲間を連れて去れ。それと……次は見逃さぬぞ」
意識を失った仲間を担ぎ、暴漢たちは逃げ去っていった。
リンは、訳も分からず、何も考えられず、
自分の身に一体何が起こったのかすら理解できず、いや、理解したくもなくて……
……ただ、路地の隅で震えながらうずくまっていた。
そのリンの身体に、ふわり、と大きな何かが羽織らされた。
「……え?」
それは、男物のコートだった。
カイトが、自分のコートを、服を破られたリンに羽織らせ、そして、手を差し伸べていた。
「立てるか?」
力なく首を横に振ると、カイトは肩と背中に手を回して、労わるように支えながら、リンを立ち上がらせた。
「しかし驚いたな。国王の姉ともあろう者が、なぜここにいる?」
「そ――」
それはこちらのセリフです、とリンは言い返したかった。
なぜこの男が、こんな場所にいて、しかもリンを助けてくれたのか。
この男は、いったい何者なのか。
そんな疑問を口に出したかったが、
「あ……ぅあ……ぁ……ぁうう」
出てきたのは、嗚咽だった。
全身が震えだし、
奥歯がガタガタと音を立て、
足腰に力が入らなくなって、
カイトの胸にすがりつくように倒れ込んだ。
あの秘密の通路を通ってきた時から、張り詰めてきた緊張の糸が、ついに耐え切れなくなってプッツリと切れた。
「うぁああ………わぁぁぁぁぁ……」
リンは、カイトの胸に抱かれながら、子猫のように震え、泣いた。
「警備隊はここには来ねえし、奴らは行商以外狙わねえ。早く身ぐるみを剥げ」
「本当に金持ってるんだろうな」
「持ってる。コイツ、物を言い値で買ったからな。――懐だ」
男の一人が真正面に立ち、リンの胸元を掴み、引き裂いた。
「―――っ!!??」
悲鳴を上げ、暴れようにも男たちの力に抵抗出来なかった。
男の手が無遠慮に胸元に入り込み、金の入った袋を奪っていく。
「おい、こいつどうする」
「犯したきゃ、やれ。俺は先に金勘定だ」
リンの耳元に、男の荒々しい息が吐きつけられた。
そのまま人形のように持ち上げられ、今度は道路に仰向けに転がされる。
目の前に、リンに覆いかぶさろうとする男の大きな影があった。
「!!???」
猿轡の奥で叫ぶリンの両腕を押さえつけ、その両足のあいだに膝を入れて、無理やりこじ開けられる。
男の体重に押しつぶされ、身動きができないリンの胸元に男の手が這い回り、その小さな乳房を乱暴に掴まれた。
「――――っ!!!!!!!」
嫌悪感と、
恐怖感と、
激しい痛みに、
リンの目の奥が真っ赤になった。
―怖い
―怖い
―怖い
―怖い
―助けて…レン………
―助けて……レオ………
―助けて………アル………
―助けて…………ルカ………
―助けて………………カイト……
リンに伸し掛かっていた圧力が、突然消えた。
リンを襲っていた男が、誰かにその髪の毛を掴まれ、引き上げられるがままに仰け反り、大きく背後へと倒れ込もうとしていた。
男の髪を掴んでいたのは、細身の優男。
髪を掴まれた痛みに野獣のような咆哮をあげながら暴れる男を、その優男は平然と、片手で投げ飛ばした。
ぎゃっ、と悲鳴を上げて転がった男の有様に、他の男たちが殺気立った。
「誰だッ!?」
問うた男の手には、既に短刀が握られていた。
「……カイト」
短く答えた優男の長い脚が、差し向けられていた短刀を蹴り飛ばす。
一瞬の早業だった。
優男――カイトの身体がダイナミックに回転し、二撃目の蹴りの爪先が、男のあご先を掠めた。
たったそれだけ。
だが、それだけで男は激しい脳震盪を起こし、足元から崩れ落ちた。
カイトは軽いステップから、わずかに身体を横に傾ける。
背後から襲いかかって来た別の男の一撃が、目標を見失って、虚しく宙を切った。
勢い余って前かがみになってしまった男の首筋に、カイトの手刀が振り下ろされ、二人目の意識を刈る。
リンを襲った男は残り二人だった。
その内の一人は、最初にカイトに引きずり倒されていて、瞬きする間に仲間二人を倒したカイトの姿に呆然としたまま座り込んでいた。
最後の一人は、近くに居たリンに目を向け、人質にしようと考えたのか、彼女に向かって手を伸ばそうとしたが、
「下らぬことは、考えぬ方が身のためだぞ」
聴く者の心底を冷え込ませ揺さぶるような冷徹な声に、男は震え上がって、リンに伸ばしかけた手を引っ込めた。
カイトは倒した男から金の袋を拾い上げ、そして残した男二人に告げた。
「仲間を連れて去れ。それと……次は見逃さぬぞ」
意識を失った仲間を担ぎ、暴漢たちは逃げ去っていった。
リンは、訳も分からず、何も考えられず、
自分の身に一体何が起こったのかすら理解できず、いや、理解したくもなくて……
……ただ、路地の隅で震えながらうずくまっていた。
そのリンの身体に、ふわり、と大きな何かが羽織らされた。
「……え?」
それは、男物のコートだった。
カイトが、自分のコートを、服を破られたリンに羽織らせ、そして、手を差し伸べていた。
「立てるか?」
力なく首を横に振ると、カイトは肩と背中に手を回して、労わるように支えながら、リンを立ち上がらせた。
「しかし驚いたな。国王の姉ともあろう者が、なぜここにいる?」
「そ――」
それはこちらのセリフです、とリンは言い返したかった。
なぜこの男が、こんな場所にいて、しかもリンを助けてくれたのか。
この男は、いったい何者なのか。
そんな疑問を口に出したかったが、
「あ……ぅあ……ぁ……ぁうう」
出てきたのは、嗚咽だった。
全身が震えだし、
奥歯がガタガタと音を立て、
足腰に力が入らなくなって、
カイトの胸にすがりつくように倒れ込んだ。
あの秘密の通路を通ってきた時から、張り詰めてきた緊張の糸が、ついに耐え切れなくなってプッツリと切れた。
「うぁああ………わぁぁぁぁぁ……」
リンは、カイトの胸に抱かれながら、子猫のように震え、泣いた。
更新日:2012-12-29 22:40:53