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「ちょ……ちょっと、レン?」
(あれ? もしかして私、半裸の弟にベッドに押し倒されちゃってる?)
思いもしなかったありえない状況に、リンの頭は混乱をきたした。
レンは真剣な眼差しでリンを見下ろしながら、その頬に触れていた手を離し、下へと滑らせる。
「なぁ、リン」
「れ……レン……」
「そのメイド服を……脱いでくれないか」
「っ!!!!???」
(ダメダメ、それはダメ。ちょっと、レン、なに考えてるのぉっ!?)
あまりのことにリンは悲鳴すら上げられなかった。
その間にレンの手は、リンの胸元、腹部を過ぎ去り、腰元へと伸ばされ――
――その膝の上に畳まれていた上着を手に取った。
レンはその上着を広げると、リンの上半身に合わせるようにして被せ、そして上体を起こし、少し離れてその姿を眺めた。
「うん、やっぱり似合うな。僕そっくりだ」
「は?」
「なぁ、リン。ちょっとお互いの服を交換してみないか?」
「はぁっ!?」
リンは、レンの肩を手で押して、その身体を押しのけながら起き上がった。
肩に触れた手の内の、しなやかで張りのある筋肉の感触を努めて意識しないようにしながら、リンは、隣に座り直したレンに言った。
「さっきから何を考えているかと思えば……本当に何考えてんのよ」
「互いの立場を入れ替わってみないか、ってことさ。僕がメイドで、リンが国王」
「真面目な顔して馬鹿なこと言わないで。だいたい、なんでいきなりそんなこと言い出すのよ?」
そこまで言って、リンは、その理由に思い至った。
「ねぇ、レン。もしかして、今日の会議で何かあったの……?」
そう訊くと、レンの表情が暗く沈んだものになった。
(ああ、やっぱり)
きっと、今日の会議でなにか酷いことでも言われたに違いない。
それできっと、国王という立場に嫌気が差してしまったんじゃないだろうか。と、リンは思った。
だから、こんなことを言いだし――
「リン、実はね……」
「うん」
暗い表情のままで話し始めたレンに、リンは思わず居住まいを正した。
「……今日の会議に向けて色々と資料を調べているうちに、民衆の生活がかなり苦しいということが見えてきたんだ」
レンは、税金未払いのために投獄される人間が年々増えてきているらしいと言った。
ほとんどが低所得者層であり、彼らは投獄された上で、財産から未払い分を強制徴収されるのだ。
「不景気で財政難が続く中、かつての権力闘争の軋轢もあって、まだ国内の一部では政治的混乱も残っている。そのしわ寄せは全部民衆に向かっているのが今の現状だ。……知れば知るほどひどいものさ。カイトが命をかけて批判に来たのも無理はない」
「……っ!?」
カイト。
その男の名がレンの口から出たことに、リンの胸がざわめいた。
レンは続ける。
「こんな現状にもかかわらず、大臣たちは改善しようとするどころか、この状況を利用して自分の利益を上げることしか考えていない。これじゃ、この国はひどくなる一方だ。だから、この国のあり方そのものを変えなくちゃならない」
レンの口調が少しづつ熱を帯び始めた。
だけど、とレンは言った。
「だけど、今の僕にはまだまだ知らないことが多すぎる。民衆のための政治をしようにも、その民衆の生活を僕は見たことさえない。だから……」
「だから……まさか?」
「そう、そのまさかさ」
レンはここでようやく、いつもの笑みを見せた。
「私に国王をやれって言うの!?」
「幸い、明日は特に重要な用事もないし、リンでも全然問題ないと思うんだ」
「問題大アリよ!」
「大丈夫、僕らは双子だよ。きっと誰にもわからないさ」
「バレるわよ。もう昔とは顔つきも体格も変わってきているんだから」
「そうかな?」
そうよ。と言いかけて、リンはまたレンの身体を意識しそうになった。
そもそも、いつまで上半身裸でいるつもりなのやら、いい加減に服を着てもらわないと目のやり場に困る。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと服を着なさい」
「メイド服?」
「あんた、本当に着てみたいの?」
「実は憧れていた」
「冗談よね?」
「うん、冗談。でも入れ替わりたいってのは本気だ」
「言っとくけど、メイドになったって民衆の暮らしぶりなんかわからないわよ。だいたい、私だって一応貴族なんだし」
「わかってるよ。そもそもメイドの仕事をしてみたいってわけじゃない。僕にそんなことが出来るとも思えないし。……僕の目的はね、直接この目で民衆の暮らしぶりを見て回ることだ」
「王宮を抜け出す気なの? どうやって!?」
どうやって、と思わず聞き返してしまったことをリンは後悔した。
この弟のことだ。抜け出すといったなら、既にその算段が立っているに違いないのだ。
リンが危惧したとおり、レンはよくぞ訊いてくれた、とでも言いたげに笑みを浮かべた。
(あれ? もしかして私、半裸の弟にベッドに押し倒されちゃってる?)
思いもしなかったありえない状況に、リンの頭は混乱をきたした。
レンは真剣な眼差しでリンを見下ろしながら、その頬に触れていた手を離し、下へと滑らせる。
「なぁ、リン」
「れ……レン……」
「そのメイド服を……脱いでくれないか」
「っ!!!!???」
(ダメダメ、それはダメ。ちょっと、レン、なに考えてるのぉっ!?)
あまりのことにリンは悲鳴すら上げられなかった。
その間にレンの手は、リンの胸元、腹部を過ぎ去り、腰元へと伸ばされ――
――その膝の上に畳まれていた上着を手に取った。
レンはその上着を広げると、リンの上半身に合わせるようにして被せ、そして上体を起こし、少し離れてその姿を眺めた。
「うん、やっぱり似合うな。僕そっくりだ」
「は?」
「なぁ、リン。ちょっとお互いの服を交換してみないか?」
「はぁっ!?」
リンは、レンの肩を手で押して、その身体を押しのけながら起き上がった。
肩に触れた手の内の、しなやかで張りのある筋肉の感触を努めて意識しないようにしながら、リンは、隣に座り直したレンに言った。
「さっきから何を考えているかと思えば……本当に何考えてんのよ」
「互いの立場を入れ替わってみないか、ってことさ。僕がメイドで、リンが国王」
「真面目な顔して馬鹿なこと言わないで。だいたい、なんでいきなりそんなこと言い出すのよ?」
そこまで言って、リンは、その理由に思い至った。
「ねぇ、レン。もしかして、今日の会議で何かあったの……?」
そう訊くと、レンの表情が暗く沈んだものになった。
(ああ、やっぱり)
きっと、今日の会議でなにか酷いことでも言われたに違いない。
それできっと、国王という立場に嫌気が差してしまったんじゃないだろうか。と、リンは思った。
だから、こんなことを言いだし――
「リン、実はね……」
「うん」
暗い表情のままで話し始めたレンに、リンは思わず居住まいを正した。
「……今日の会議に向けて色々と資料を調べているうちに、民衆の生活がかなり苦しいということが見えてきたんだ」
レンは、税金未払いのために投獄される人間が年々増えてきているらしいと言った。
ほとんどが低所得者層であり、彼らは投獄された上で、財産から未払い分を強制徴収されるのだ。
「不景気で財政難が続く中、かつての権力闘争の軋轢もあって、まだ国内の一部では政治的混乱も残っている。そのしわ寄せは全部民衆に向かっているのが今の現状だ。……知れば知るほどひどいものさ。カイトが命をかけて批判に来たのも無理はない」
「……っ!?」
カイト。
その男の名がレンの口から出たことに、リンの胸がざわめいた。
レンは続ける。
「こんな現状にもかかわらず、大臣たちは改善しようとするどころか、この状況を利用して自分の利益を上げることしか考えていない。これじゃ、この国はひどくなる一方だ。だから、この国のあり方そのものを変えなくちゃならない」
レンの口調が少しづつ熱を帯び始めた。
だけど、とレンは言った。
「だけど、今の僕にはまだまだ知らないことが多すぎる。民衆のための政治をしようにも、その民衆の生活を僕は見たことさえない。だから……」
「だから……まさか?」
「そう、そのまさかさ」
レンはここでようやく、いつもの笑みを見せた。
「私に国王をやれって言うの!?」
「幸い、明日は特に重要な用事もないし、リンでも全然問題ないと思うんだ」
「問題大アリよ!」
「大丈夫、僕らは双子だよ。きっと誰にもわからないさ」
「バレるわよ。もう昔とは顔つきも体格も変わってきているんだから」
「そうかな?」
そうよ。と言いかけて、リンはまたレンの身体を意識しそうになった。
そもそも、いつまで上半身裸でいるつもりなのやら、いい加減に服を着てもらわないと目のやり場に困る。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと服を着なさい」
「メイド服?」
「あんた、本当に着てみたいの?」
「実は憧れていた」
「冗談よね?」
「うん、冗談。でも入れ替わりたいってのは本気だ」
「言っとくけど、メイドになったって民衆の暮らしぶりなんかわからないわよ。だいたい、私だって一応貴族なんだし」
「わかってるよ。そもそもメイドの仕事をしてみたいってわけじゃない。僕にそんなことが出来るとも思えないし。……僕の目的はね、直接この目で民衆の暮らしぶりを見て回ることだ」
「王宮を抜け出す気なの? どうやって!?」
どうやって、と思わず聞き返してしまったことをリンは後悔した。
この弟のことだ。抜け出すといったなら、既にその算段が立っているに違いないのだ。
リンが危惧したとおり、レンはよくぞ訊いてくれた、とでも言いたげに笑みを浮かべた。
更新日:2012-11-18 11:44:10