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リン、レン~君は国王、僕はメイド~

長い会議をようやく終えたレンは、自室に戻るやいなや、着替えもせずにベッドに倒れこんだ。

ほどなくして部屋にやってきたリンが、ベッドにうつ伏せになっている弟の姿を目にして、複雑な表情を浮かべた。

「レン、起きて。疲れているでしょうけど、せめて着替えないと」

「ん……あぁ、そうだな」

レンは薄く目を開けると、ベッドで寝返りを打ち、仰向けになった。

そういえば、とレンが仰向けのまま訊いた。

「ミク姉の様子はどうだった?」

「お仕事大変だね、頑張って。……ですって」

リンは、ミクが王宮を去り際に告げた短い言葉を伝えながら、彼女がどこか上の空だったような印象だったのを思い出した。

(もしかして、カイトのことを考えていたのかしら)

そうなのかも知れない。

そう思うと、婚約者から相手にされていないレンが不憫になってきた。

もっとも、リンは、当の本人が既にミクとカイトの関係を知っているなどとは思ってもいなかった。

そのレンも、リンが、ミクとカイトの関係を知っているとは夢にも思っていない。

だからレンは、もしリンがそれを知ってしまったら、ミクとは幼い頃から親交があるだけに、裏切られたような気分になって傷つくかもしれないと思って、ミクのあっさりとした別れの態度にも深く突っ込まず、ただ、

「そうか」

とだけ答え、ベッドから上半身を起こすと上着を脱ぎ始めた。

リンは、レンが服を脱いでいるあいだに寝間着を用意するため、クローゼットに足を踏み入れた。

国王専用のクローゼットともなれば、メイド達が使用する控えの間とほぼ同等の広さがある。

大量の服が並ぶ倉庫同然のクローゼットに分け入り、寝間着をとって部屋に戻る。

レンが、上着を脱いだ上半身裸の姿で窓際に立ち、外を眺めていた。

「ちょっと、なんて格好で窓際に立っているのよ」

「ん? あぁ」

考え事でもしていたのか、気の抜けた返事をするレンに寝間着を押し付け、リンはベッドに脱ぎ捨てられたレンの服を片付けにかかった。

ベッド脇に腰掛け、上着を膝の上で畳みながら、ふと、レンを見る。

彼は、寝間着を手に持ったまま、まだ窓際に佇んでいた。

いつも着替えのたびに目にしているが、こうして改めて見てみると、上半身裸のレンの身体は、日頃の剣術の稽古のおかげで非常に引き締まっていて、無駄な肉というのが一切なかった。

(昔は女の子みたいだったのに……)

細かった二の腕にも筋肉が張り、なで肩だった両肩も幅広くなって、胸板も厚い。

脇腹もたるみなく締まり、腹筋も割れていた。

かつて女の子とさえ間違えられていた華奢な身体つきの幼い弟はもういなかった。

そこに立っているのは、日に日にたくましい男へと目覚しく成長していく、少年の姿だった。

リンは、しばしぼうっとレンの姿をみつめていた。

だが、ふいに、レンもまたリンを見ていることに気がついた。

レンが、真面目な顔つきで、じっとリンを見ている。

(え? ……あっ)

リンは、レンと目があって初めて、自分が弟の身体をまじまじと見つめてしまっていたことに気がついた。

カッと顔が熱くなり、慌ててレンから目をそらす。

膝の上においた上着を畳む作業を再開したが、それなのに、いまだレンの視線を感じていた。

おずおずと視線を戻すと、レンは同じ格好のまま、やはりリンを見つめていた。

「ちょ、ちょっとレン、何?」

早く着替えなさいよ。

そう言おうとする前に、レンが口を開いた。

「いや、リンって美人だよな。って思って」

「――は?」

姉に向かって何を言っているんだコイツ。

しかも双子に向かって。

そう思っているあいだに、レンがするすると近寄ってきた。

彼はリンの顔を覗き込むように身体を寄せると、その頬に手を伸ばした。

レンの剣だこだらけの手のひらは固く、そして火照った自分の顔よりもなお高い体温を、リンは頬に感じた。

その目の前には、吐息がかかりそうなほど近くに、レンの顔がある。

それはさらに近づいてきて、リンは思わず離れようとして、身を引いた。

だが、ベッドに腰掛けていたため、リンはそのまま後ろに倒れこんでしまう。

レンはそのまま前に出てきて、仰向けになったリンに覆いかぶさるように、ベッドに両手を付いた。

更新日:2012-11-18 11:48:51

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