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レオン、アル、キヨテル~策謀する者たち~

結局、徹夜した。

朝食を持って部屋にやってきたリンは、机に向かい続けているレンの姿を目にして、呆れてため息をついた。

「レン、またやったのね」

「頼むから“国王は徹夜するべからず”なんて法律は作らないでくれよ」

「体調崩すようなら、考えざるを得ないわよ。……はい、お茶」

眠気覚ましになるよう、ミルクも砂糖も入れない濃いストレートティー。

レンはそれを受け取り、うまそうに飲み干した。

「ねぇ、会議は三時間後でしょ。少しは眠ったら?」

「会議以外にもいろいろと仕事があるからな。好きでやった徹夜のせいで休ませてもらうわけにも行かないさ」

「その責任感は立派だけど、体調管理も仕事のうちってことを忘れないでね」

「あぁ、気をつけるよ。ところで、ミク姉は?」

レンは、自分の言葉で、昨日の夜に見たミクの様子を思い出した。

思い出しただけだった。

リンもまた、その言葉に昨晩のことを思い出したが、平成を装い、答えた。

「まだ御寝所でお休みになられてるわ。あちらの従者が、まもなく起こす予定らしいけれど」

「確か今日は、王宮内を見学してから、キヨテル殿の館へ移られるんだったな」

「ええ、そうよ」

それを聞くと、レンは腕組みをして、しばらく目を閉じて考え込んだ。

リンは、レンがそのまま眠ってしまったのではないかと疑ったが、その矢先、レンは目を開いて、言った。

「悪いが、今日はミク姉の見送りには行けそうもない。今日の会議は、きっと長引く」

「どうして?」

「色々と問題が山積みってことさ」

レンは朝食を食べ始めながら、リンに、他にも何人かメイドを呼んでくるよう指示した。

机の上に山積みにされた資料を、会議室へと運ぶためだった。

リンは一度部屋の外へ出て、そこに控えていたルカにその内容を伝えた。

だが、ルカは困ったように表情を曇らせた。

「実は、昨晩からお泊まりのお客様への対応で忙しく、人手が足りない状況なんです。資料を運べるのは、私ぐらいしか……」

「私たち二人であの量を……う~ん、ちょっと厳しいわよねぇ」

何しろ分厚い資料が山のように積まれているのだ。

女手では、文字通り荷が重すぎる。

なんとか人手を確保できないかと、リンとルカが悩んでいると、そこへ、声をかけてくる者が現れた。

「これは、リン様。おはようございます」

がっしりとした大柄な身体付きの、三十半ばほどの男だった。

衛兵の制服に高級将校の階級章を付け、その胸には国王直属であることを示す王家の紋章が刺繍されている。

「あ、レオ」

現れたのは、国王親衛隊隊長・レオンだった。

その傍らには、副隊長のアルが影のように控えている。

二人とも、リンとレンがまだ幼い頃からずっと親衛隊員として傍に仕えてきた、気心の知れた旧臣たちだった。

「陛下に朝のご挨拶にまいったのですが……リン様、いかがなされました? まさか、陛下のご様子に異変でも?」

「いえ、そうでは無いの。ちょっと、陛下から荷物を運ぶよう命じられたのだけれど……」

リンから、大量の資料を会議室へ運ぼうにも人手が足りないことを聞くと、レオンはニッコリと笑って頷いた。

「なるほど、でしたら私たちがお手伝いいたしましょう」

「ありがとう、レオ。でも催促したみたいで悪いわ。それに親衛隊も忙しいんじゃないの?」

「なんの、意外と暇なものです。それに陛下とリン様のお役に立つことが、私たちの務めなのですから」

レオンの言葉に、リンは苦笑した。

レオンを始め親衛隊員たちは未だに、リンを王族であったころと同じように敬っていた。

しかもそれが、彼らの純粋な気持ちから発していることが分かっているだけに、リンも彼らの好意を無下に断ることはできなかった。

「じゃあ、甘えてもよろしいかしら」

「ええ、甘えてください。それが我々の喜びです。では、リン様、ルカ殿。私とアルは陛下に挨拶がございますので、御手数ですが、近くの親衛隊員に声をかけてきてくださいませんか。なぁに、私の命令と言わずとも、お二方の頼みならば連中は尻尾を振って付いてくるでしょう」

レオンの優しい笑顔に見送られ、リンとルカはその場を立ち去っていく。

親衛隊を率いる二人の男は、それを見送ると、国王の部屋の扉をノックした。

「親衛隊、レオン及びアルにございます」

「入れ」

更新日:2012-11-04 17:34:08

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