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温暖で実り豊かな中津森には珍しく、その日は夜明けから冷たい雨が止まなかった。
重ねて館の空気が物々しい。
一ヶ月程前のフェーリーの森での戦いの後、奥方が言ったようにナルディムの丘にアンデルア皇国軍が侵攻を始めたとの情報が昨日入ったのだ。
兵士を鼓舞する太鼓が鳴り響く。
今まさに、将軍と、その直属を主核とした軍隊が出陣するところだ。
ナルディムの丘までの間に駐屯する兵を引き連れながら、敵軍との戦場を目指す。
それを見下ろすバルコニーに、奥方が現れる。
「森に生き、こよなく森を愛す、血を分けた我が息子同然の森の民、そして森の兵士たち。戦は辛いですか? 悲しいですか? しかし今は戦う時です。気は穏やかで、本来、戦を嫌うわたくしたちですが、全てを収奪する卑しきアンデルア皇国に、精霊の加護を授かる、神聖な先祖伝来のこの土地を明け渡すわけにはいきません」
皆がしんと静まり返り、言葉の一つ一つに耳を傾ける。
「蹴散らすのです。完膚なきまでに。情けはいりません。それがこの森の民のためです」
奥方は絹織りの優美な衣装が濡れるのもいとわず、勇ましい声と身振りで館入り口の広場に集まった兵士たちを煽る。
まるで温厚な森の民とは思えぬ言葉だが、その衝撃が兵士を鼓舞する。そして、その兵士たちの発する怒号があたりを震えさせる。
今回の軍隊の三分の一は、西の森から逃げてきた兵たちで構成されていた。
身に着けているものが、中津森の兵とは違うので見た目にすぐに分かる。体格も、民族的に、やや華奢な者が多かった。
しかし、エイクに厳しく訓練されて晴れて正式入隊したつわものたちだ。故郷の喪失を経験し、精神的にも経験が深い。
軍は以前より圧倒的に強化されている。
兵たちの顔がなによりそれを物語っていた。
重ねて館の空気が物々しい。
一ヶ月程前のフェーリーの森での戦いの後、奥方が言ったようにナルディムの丘にアンデルア皇国軍が侵攻を始めたとの情報が昨日入ったのだ。
兵士を鼓舞する太鼓が鳴り響く。
今まさに、将軍と、その直属を主核とした軍隊が出陣するところだ。
ナルディムの丘までの間に駐屯する兵を引き連れながら、敵軍との戦場を目指す。
それを見下ろすバルコニーに、奥方が現れる。
「森に生き、こよなく森を愛す、血を分けた我が息子同然の森の民、そして森の兵士たち。戦は辛いですか? 悲しいですか? しかし今は戦う時です。気は穏やかで、本来、戦を嫌うわたくしたちですが、全てを収奪する卑しきアンデルア皇国に、精霊の加護を授かる、神聖な先祖伝来のこの土地を明け渡すわけにはいきません」
皆がしんと静まり返り、言葉の一つ一つに耳を傾ける。
「蹴散らすのです。完膚なきまでに。情けはいりません。それがこの森の民のためです」
奥方は絹織りの優美な衣装が濡れるのもいとわず、勇ましい声と身振りで館入り口の広場に集まった兵士たちを煽る。
まるで温厚な森の民とは思えぬ言葉だが、その衝撃が兵士を鼓舞する。そして、その兵士たちの発する怒号があたりを震えさせる。
今回の軍隊の三分の一は、西の森から逃げてきた兵たちで構成されていた。
身に着けているものが、中津森の兵とは違うので見た目にすぐに分かる。体格も、民族的に、やや華奢な者が多かった。
しかし、エイクに厳しく訓練されて晴れて正式入隊したつわものたちだ。故郷の喪失を経験し、精神的にも経験が深い。
軍は以前より圧倒的に強化されている。
兵たちの顔がなによりそれを物語っていた。
更新日:2013-08-02 08:44:49