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「ティジット。水臭いぜ。白状しろよ。イーシュちゃんと付き合ってんだろ?」

 藪から棒にエイクが部屋にやってきて、ティジットが読んでいた本を乱暴に取り上げ、にやにや下品な顔をしながら詰め寄った。

「誰からそんな……」

「噂だよ。う、わ、さ。ティジットが時々イーシュちゃんと会ってるんじゃないかって。
宴の日、うまくやったんだな! まだ極秘だが、一部の兵士の間で持ちきりだぜ?」

 のしかかる勢いのエイクを暑苦しそうに回避して、ティジットは日の差す窓辺に立った。

「お付き合いしているわけではありません。お付き合いさせていただきたいと、懇願しているところです」

「ぶっ!」

 ティジットの包み隠さない率直さに、逆にエイクが頬を染める。

「懇願って……。お前って、ほんと、照れくさいことを平気で言うやつだぜ……」

「そうですか?」

「どうりで女がほっとかないわけだ」

「そうでもありません。イーシュにはかわされてばかりです」

 にやにやしながらエイクが顎を揉む。

「そりゃあ彼女は難関中の難関だからな。そう簡単にいくわけねえよ。……くくく。てか、最近、お前なんだかふわふわしてるぜ?」

「ふわふわ? そう見えますか? よくありませんね」

「すっかりお前もイーシュちゃんの虜になっちまったってわけだ! がはは! よかったな!」

「ふう。そういうことですか。なにがよかったんですか」

「冷やかしてやるって約束したろ?」

「結構ですよ」

 エイクが遠慮なしに笑い転げている。けれどどこか嬉しそうでなくも無い。暖かな笑みに満ちている。
 エイクなりの祝福と激励らしい。


更新日:2013-08-03 22:16:48

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