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 ティジットは急に立ち止まり、困った顔をした。

「……申し訳ないとは思うんですが、正直あまり興味がないんです」

「男色家か?」

「違います。過去にはお付き合いさせていただいた女性も何人かいます」

 エイクが「がはは」と下品に笑った。からかわれたようだ。

「知ってる。知ってる。何人かじゃねえだろ。なんか若いころはずいぶん慣らしたってハナシじゃねえか。ん?」

 ティジットは、その核心はさらりと無視する。

「しかし、今は戦のことを思うと…」

 ティジットは首を振り、消沈して、少しやつれた横顔を見せた。
 無視したのは呆れたのでも、触れられたくなかったからでもなく、心に余裕が無かったからなのかもしれない。
 それを聞いて、少し唖然としていたエイクが、急に鋭くティジットの鼻先に指を向けた。

「そりゃあれだ。戦だけのせいじゃない。お前の心を動かすような女に出会っていないからだ」

「そうでしょうか」

 ティジットはふいとかわす。全く相手にしていない。それどころか、不謹慎な話題だとでも言わんばかりに、嫌悪感をあらわにしてしまったくらいだ。
 避けられたエイクは、どた足で回り込んでまでティジットの正面にやって来た。

「きっとそうだ。お前、意外と、好きになったら命がけなタイプだと思うぜ。しかも一目惚れだ」

「そんな自分は想像ができませんね」

「その時はさんざん茶化してやるから待ってろ。がはは」

 白けて覇気のないティジットを元気付けるかように、エイクは勢いよく背中を叩いた。
 よく鍛えられた生粋の剣士の一撃によろけて、ティジットがむせる。そして迷惑そうにエイクを睨む。
 だが、それが消えると、ようやく顔には少しだけ笑みが浮かんだ。
 エイクの力技で、無理やりに。

更新日:2013-08-02 08:43:48

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