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 二人はいくつかの階段を降り、ほどなく中庭に出た。
 神や精霊が降り立ち遊ぶような見事な彫像が並ぶ、取り囲む壁すらほぼ全て蔦の葉で覆われた、一面の緑に囲まれた庭だ。
 大きくはないが、綺麗な水を湛えた噴水が、日の光にきらきらと輝く。
 森の小鳥やどこからかはいりこんだ小動物たちまでもが立ち寄る。
 まるで館を取り囲む森をそのまま持ってきて、美しく手入れを施したような場所だ。
 ここは、兵士ではない館の外の一般の民も出入りが許されていて、いつも憩いに賑わっている。

 その中を横切って、ティジットとエイクは並んで進んだ。

「しっかし、お前も大変だよな」

 エイクがティジットをちらりと見る。当のティジットは不思議そうに首を傾げた。

「なにがですか?」

「……っと、噂をすればおいでなすったぜ」

 エイクの視線を辿ったティジットは、薔薇のアーチで飾られた小道の向こうからやって来た年頃の若い娘たちと目が合った。
 娘たちがきゃあきゃあ甲高い声を上げながらこちらに手を振ってくる。

「あっ! ティジット様!」

「ティジット様! ご無事で!」

 そうして娘たちは、ぱたぱたとウサギのように愛らしくティジットの傍らにすり寄って来る。
 けれど、ティジットは立ち止まらず、柔らかい笑顔を作ると優しく手を振り、むしろ早足になってその前を通り過ぎた。
 その色男に、にたついた顔のエイクが小走りで追いついて来る。すねてはいない。

「顔良し、性格良し、頭も良いって、そりゃもてるわ」

「男は戦で減っていますからね」

 ティジットは真面目な顔で極めて冷静に言う。

「いや、もてる理由はそういうことじゃないだろ……。現に、俺んとこには来ないぜえ? こんなに空いてるのに」

 筋肉豊かな太い腕を持ち上げ、エイクが両脇をがっぽりと空けてみせる。

「エイクこそもてると思いますが……」

 ティジットが心底信じられないという顔をする。

「男にもてるんだよな、俺。求めてないのに舎弟がわんさかだぜ?」

 エイクががっくりと肩を落とす。

「それはそれで幸せなことです」

「女にもてるほうがいいよ。お前がうらやましい」


更新日:2013-08-02 08:43:01

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