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 あたりは薄明るく、白い霞に包まれていた。
 他には何も見えない。
 ティジットは霞に消えかかる人影を追いかけていた。

「待ってください!」

 何も無い空に何度も手を伸ばす。
 あわや消えうせそうな、そんな緊張感を味わいながら、やっとのことで捕まえる。

「ああ……」

 後ろからしっかりと、けれど優しく抱きとめた華奢な柔肌の感触に、ティジットは溶かされて深いため息を漏らす。
 亜麻色の細く長い髪がティジットの腕をくすぐった。

「イーシュ……」

 追いかけていたのはイーシュだった。
 ティジットはゆっくりと、黙って動かない少女をこちらに向かせた。
 長いまつげで伏せらた瞳。
 ティジットはそっと、花にでも触れるように優しく、頬を染めうつむいたままのイーシュの顎に手をかけた。

「……イーシュ、あなたの瞳の色をどうか見せてください……」

 それに応え、イーシュはゆっくりと顔を上げ、まぶたを開いた。




更新日:2013-08-03 21:22:12

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