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 盛夏、中津森は新年の祭りに沸いていた。
 森の生き物や植物に仮装した人々が行列を作り、輪になり、踊り、戯れ、馳走に喜び、酒を呑む。

 森の民の暦では、新年は真夏に訪れる。
 一般には精霊祭と呼ばれる、満月に合わせて行われるこの新年祭は、当然一年に一度の、森の民にとって大切な七日間だ。

 あれから何度かの会戦が起こったが、地形的に中津森軍に有利なナルディムの丘は落とされることなく、しかしかといってかつての領土を奪い返すこともできず、この祭りの時期までやって来た。

 それは、長年暗黙のうちに了承された短い休戦の季節でもあった。
 南のアンデルア皇国が旱魃の季節に入ったのだ。
 もともと国土の半分は乾燥の厳しい土地柄で、この時期必ず複数地域で水不足と食料不足が起きる。攻め戦をするには苦しい。

 しかし皇国の防備は緩くない。
 領土を奪い返せるほどの好機でもない。

 それよりもこの時期に体制を整え、英気を養うことに、森の民は専念する。もってこいの息抜きだ。

 二十年にも及ぶ断続的に続く侵略戦争のうちに、幾度かの例外はあったものの、いつの間にかこの時期だけはそうするのが通例となっていた。


更新日:2013-08-03 20:43:59

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