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エピローグ



「いかがな心変わりでございますか? 停戦とは……」

 皇国の国旗がかかる豪華な部屋に、そう問いかける身なりのよい老人と、立派な体つきの若者が立っていた。

 若者は不服そうに鼻を鳴らす。

 アンデルアの皇子だ。

「仕方なかろう。酌だが、命を助けられた。恩には報いるのがアンデルアの道理だ」

 その隣、皇子の脇に控えた女が、大きな扇を絶え間なくゆっくりと動かし、部屋に風を送っている。

 季節はまだ春でもないというのに、窓の向こうには森とは違う強い日差しが垣間見える。

「確かに……アンデルアは恩義を重んじる貴人の国……そうではございますが……。
 それに今まで拒んでいた皇位を継がれるとご決断されたとか……」

 老人はそれでも全く理解できないという様子で、身を正したまま立ち尽くしている。

「じいには政治のことも戦争のこともわかりかねますが、あの男……ティジット将軍とやらとは、いかような話がなされたのでございますか?
 なにか、あの人物と話してから、皇子が変わられたように思います」

「それは良い方にか? 悪い方にか?」

「……良い悪いということではなく……人間らしくなったと言うか……。
 玉座に君臨する者には弱みにもなりますゆえ、あまり行き過ぎは危険ですが……しかし全く感じられないというのも問題ですし……」

「俺が全く人間らしくなかったとでも言うのか?」

 多少憤慨して、皇子は気心知れているらしい老人を睨みつける。


更新日:2012-11-10 12:17:58

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