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第10章 〈2〉




「サラ様!」

 目を開けたあたしに、生気が戻っていることに気付いたのは、サイドボードにミルクを置こうとしていたクレアだった。


 東の空が明るい。何日目の朝だろう。

「おはよう……今日は葬儀の日?」

「サラ! 気づいたのか」
 ヘッドボードにもたれていたウィルが、驚いて顔を上げる。


 クレアが泣きそうな笑顔で、トレイを落とし、あたしの手を握りしめた。


「ごめん、心配かけて。ウィルの声が聞こえた。クレアと、ママたちの声も。今日は、葬儀の日でしょう?」

 ウィルが、戸惑った顔であたしの頬に手を伸ばす。

 あたしの、淡々とした話し方に、疑問を持っているのだろう。なにか、感情が爆発する前触れではないかと。

「そうだ」

「大丈夫よ、ありがとう。あなたのおかげで、大切なことを思いだした。あたしはまだ、やらなければならないことがある」

 微笑(わら)ってみせると、彼はきつねにつままれたようなぎこちない笑みを返した。

「出るのか?」

「ええ。あたしは喪主だもの」

 〝喪主〟とは、故人の魂を呼び寄せ、天に導く役目を果たすもの。恋人や友人、家族など、一番魂の近しい存在がその役割を果たす。

「……わかった。とにかく、親父さんたちに知らせてくるよ」

 ユーリの葬儀について、平然と話すあたしを、いぶかしげな顔で見つめながらウィルが立ち上がる。



 彼が出ていくのを確認してから、重い体を起こし、クレアに顔を向けた。

「サラ様……?」
 彼女も心配そうにあたしを覗き込む。

「あきらめないことにしたの。あたしは、彼の死を見ていないから。彼は生きてる。だって、死んでいたら彼の魂があたしの元に戻らないはずはないもの」


 あたしが命を落としたとき、「絆(リヤン)」の感覚が消えても、彼はちゃんとあたしを感じてくれた。あたしにユーリの魂が感じられないはずがない。


「はい!」
 クレアが嬉しそうにあたしに抱き着く。

「その通りです! 私もあきらめたくありません。私の夢を……!」


 ……「夢」……?

――ああ、そうか

 あたしたちの子供……。

「……なによりも、心強いよ……」

 それが、彼女の予知であることを祈りたい。




更新日:2013-09-02 10:22:40

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