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第1章 悪魔のささやき

私の名前はジェイル。神に仕えてもうすぐ十年となる神官だ。
神官といっても実際は名ばかりで字が読めないため
神様の社でいわゆる雑用をしている。
幼くして父を亡くした私は母一人に育てられてきた。
母は私のために朝から晩まで働き私の世話をしてくれた。
その恩に報いるためにも今こうして身を粉にして働き
恩を返さなくてはと思って日々雑用をこなしているのだ。
そんなある日私は神様に呼びつけられた。
こんなことはいままでなかったことなので
解雇されるなどいろいろ悪い想像をしたのだが
実際に神様から言われたことは予想していたどんな言葉よりも
悪いものだった。
「お前は私に仕えて今日でちょうど十年になる。
今までよく働いてくれた。そこで本来は許されないことなのだが
お前にあることを教えてやろう。」
ここで神様は言葉を切った。
「一体何ですか。」
「実はな、おまえの母はもうすぐ死ぬ。今はまだ元気だがひと月も
しないうちに病に蝕まれ寝たきりになるだろう。
その病に有効な薬はなく・・・」
私は頭の中が真っ白になり気がつくと足は故郷へと向けて
走り出していた。

―バタン
「母さん。」
家のなかに慌てて駆け込む。
「なんだい。ああ、ジェイルじゃないか。どうしたんだい
そんなにあわてて。」
そこにはいつもの母の姿があった。
「ああ、母さん・・・ただいま。」
母の元気な姿に胸をなでおろしたのだが、その後3日としないうちに
母に異変が起き始めた。
徐々に近づく冬の気配とともに次第に弱っていく母。
町の医者に見せたが治療法はないという。
僕は途方にくれた。
その時耳もとで声が囁いた。
『城の宝物庫へ・・・』
その声とともに記憶がよみがえってくる。
そうだ以前噂にどんな病でも治す霊薬のことをきいたことがある。
きっと宝物庫にはそれがあるに違いない。
だが神の宝が納められた宝物庫に入ることは重罪だ。
しかし再び声が。
『城の宝物庫へ・・・』
何かに取りつかれたかのように走り出す。
声は囁き続ける。
『城の宝物庫へ・・・』
病床の母の姿が鮮明に思い出される。
そしてとうとう神の社へとたどり着く。
入り口を通り抜けると普段は決して足を踏み入れない
禁へと続く通路を通る。
誰にも見られていない。
さらに奥へとひた走る。
突き当たりを右に曲がりとうとう宝物庫へとたどり着いた。

重い扉を押しあける。
そこにはほこりをかぶった様々な品が納められていた。
足は自然と奥へ奥へと向かっていく。
そして最奥部へとたどり着く。
そこにはぽつんと箱が置かれていた。
その箱は鎖で縛られていた。
再び声が囁く。
『それを開けるのだ。希望はその中にある・・・』
迷うことなく手をのばす。
鎖は何重にも巻かれていたが、気付くとすでに取り払っていた。
鎖に込められたのろいだろうか手は血まみれになっていた。
箱のふたに手をかける。
『その箱を開けるのだ・・・』
ふたを持ち上げた。
―ぐわーーーーーーーーーーーーーーーー
開けた瞬間中から闇が現れ辺りを包んだ・・・

更新日:2012-09-25 23:24:56

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なんどでも ~不死身な元神官の贖罪記~