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「あー、そこにいるのはもしかして天都くん?」
後ろからふいに女の声でそう呼ばれた。急な事で少し驚いつつも、後ろを振り返ってみると
「えっと・・・」
そこには見知らぬ女性が立っていた。どこかであったというわけでもないよな・・・・。この人は誰なんだ?なんで、僕の事を知っているんだろ?
「あー・・・、ごめん。自己紹介がまだだったね。私はシーア。案内するようにってウィザードさんに頼まれてここに来たの。で、君が天都君だよね」
なるほどねえ・・・・つまり案内役としてきたって事か?
「そうですけど」
「そっか、そっか。ま、おかげで私もただで泊まれるんだけどねー。ここってけっこー有名な所だし」
うんうんと自己満足げに頷いた後、なぜか美欧のほうをじっと見て
「話では聞いたけど、彼女かわいいじゃない。こんな可愛い子初めて見たよ」
シーアは「君もやるねー」とニヤニヤしながら肘でどいてくるのだった。
「は、はあ」
初対面の人にいきなりそんな事を言われてもただ呆気にとられるしかなかった。美欧も驚いたような半ば驚いたような表情してるし。
「あはは、ごめんごめん。じゃ、また後でね」
満足したのかシーアは手を振ってどこかへと行ってしまった。先程だたで泊まれるって事はあの人もどこかで泊まるって事だろう。
「へくちっ」
美欧はくしゃみをして、身震いをした。おっと、ここでぼんやりしに来たんじゃなかった。
「僕らも早く中に入ろっか」
これから一週間もここに泊まるというのにいきなり風邪でも引いて寝込んで過ごすのかなり残念になってしまう。
「うん」
「いらっしゃいませ、ようこそ、雪乃旅館へ」
「いらっしゃませ」
中に入ると、女将の雪乃と仲居のグレープが待っていた。
「今日から宿泊の神崎様ですか?」
「あ、はい。神崎です」
女将と挨拶を交わしていた。どうやらすでに予約されていることになっているらしい。その隣では
「うわ~、すごいにゃ~」
きょろきょろと周りを見ながら目を輝かせる美欧がいた。美欧がそう言うのも無理はなく、老舗という言葉に劣らない内装で昔の面影を今でも残しているようであった。
「ふふ、ありがとございます」
それに雪乃は口を手で押さえて微笑んだ。
「こちらの方はお連れの方ですか?」
「あ、はい。そうです」
「うん、そだよ~。私、美欧っていうの、よろしくね~」
「こちらこそよろしくね、美欧ちゃん。私はここの女将の雪乃です。こちらが仲居のグレープさんです」
「仲居のグレープです。以後良しなに」
雪乃子姫に紹介されたグレープは頭を上げた。
「では、お部屋まで案内させてもらいますね」
「あ、はい」
「おねがいしま~す」
「お荷物お持ちしましょか?」
「これ、重たいけど大丈夫~?」
「自分で持てますよ」
「大丈夫です。任せてください」
そう言ってグレープは二人の荷物を持ち上げようとしたのだが、荷物は持ち上がらなかった。そりゃ、そうだろう。あの中には一週間分の荷物と他に色々と必要そうな物を集めて持ってきたのだから、それなりの重さになっていても仕方がない。
「ほら~、やっぱり~」
美欧はそう言って片手で自分の荷物を軽々と持った。言い忘れていたが、美欧は細腕でだけれども体力はかなりのもので大の男でも持てないような物で持てたりする。そこらへんはやっぱり妖怪なんだなと実感されられるよな。ま、自分はそれ以上なんだから人の事を言える立場じゃないけど。
「私、仲居失格かもなー」
「大丈夫ですよ、仲居さん。普通の人は持てませんから」
その様子にショックを隠しきれないグレープにやんわりと慰めの言葉をかけた。美欧の正体を知らないグレープさんがそう思ってしまうのも無理はないよな。
「では、参りますよ」
「あ、はい。お願いします」
雪乃子姫らに案内されて宿泊する月兎の間へと向かった。
「ところで、お二人さんはご兄妹ですか?」
月兎の間に行く途中でふと、そんな事を雪乃子姫はこちらに尋ねてきた。たぶん、肌の色や髪の色が一緒だからそう言ってきたのだろう。
「え?私達は恋人同士だよ?ね、天都」
それに美欧はきょとんした顔でそう答えた。
「あ、うん」
「あらま、ごめんなさいね。てっきり、仲がよろしいから」
その答えに雪乃子姫は少し驚いた表情を浮かべた。
「いえ、気にしないでも大丈夫ですよ」
「えへへ~、仲がいいだって」
美欧はそれに嬉しそうに腕に擦りついてきた。
「あら、まあ」
その様子に雪乃子姫はくすりと笑い、その後ろでグレープはくすくすと堪え笑いをしていた。
なーんか罰ゲームっぽい雰囲気だけど、美欧が嬉しがっているのだから気にしないで置こうか。

更新日:2012-09-15 14:50:10

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