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プロローグ

「えへへ~、天都~。当たっちゃった~」
一階のリビングにあるソファーでのんびりしていると、玄関からこちら真っ直ぐにこちらに戻ってきた白髪の少女はぱたぱたと傍まで駆け寄ってきて嬉しそうにそう言ってくるのだった。当たったというのはどうも先ほど出かけた商店街で行われているクジの景品を何か当ててきたらしい。確か、チラシで商店街のくじの事を宣伝していたのを覚えている。
少女の名前は白原美欧。このあたりでは知らない人は誰もいないくらいの可愛らしさの持ち主だ。それもモデルでも見劣りしまうほどの。
美欧との出会いは追っ手から逃げていた美欧が家に逃げ込んできたのが始まりだった。最初は追っ手がいなくなるまでだったのだが、今では元から住んでいたかのように暮らしている。なぜそうなったかと言うと理由は実に簡単。離れられない関係、つまりは美欧とは恋仲になったからだ。って、自分で言っておいてなんだが、我ながらなんか恥ずかしいな。
「何が当たったの?美欧」
興奮が冷めやらぬ様子の美欧を宥めながらそう聞いた。
「えっとね~、特賞のね、旅館雪乃一組1週間宿泊券だって」
じゃーんと嬉しげに美欧は二枚のチケットを目の前に見せてきた。美欧の事だから、特等を当ててきたのだろう。
「すごいな、美欧は」
「えへへ~」
褒められた事に喜んだ美欧は嬉しそうに猫ミミをぴょこんと出して抱きついてきた。
なぜ、いきなり猫ミミが、と不思議に思うかもしれないがそう不思議な物でもない。美欧は人間ではなく、猫姫という妖怪の一族だからだ。とはいう、自分も最初の頃は妖怪であることに驚いてしまったが、今となってはなれてしまって全くに気にしていない。ちなみに猫姫とは猫またの上位種でまれな存在な為、同じ妖怪の中でもよく知るものはいないらしい。猫姫の名前の由来は女性しかいないため、猫又の姫、猫姫となったらしい。その猫姫は妖怪の中でも運は強いといわれており、その中でも美欧は並外れた強運の持ち主だそうだ。その証拠に美欧がクジ関連で特等以外を取ったところは見たことがない。今さっき取ってきた特賞がそのいい例だろう。
「あれ?ところでさ、美鈴とレナはどしたの?姿が見えないけど」
いつもとは違うのに気付いたのか周囲を見渡すと猫ミミを動かしながらこちらを見上げてきた。
美鈴とレナとは美欧と同じでこの家で一緒に住んでいる住民だ。確かに二人共にこういう事には興味を持たない訳がないのに姿を見せないから変に思ったのだろう。二人とも美欧同様に人間ではなく、美鈴は姉の美欧と同じ猫姫、レナは僕の血しか飲まない吸血鬼の真組といった経歴の持ち主。レナの言うには吸血鬼にも嗜好があるらしく、それが僕だったと言うわけで。まあ、そう言ってる自分も人間ではなく、神族という、世間で言う神みたいなのものだったりする。元々は普通の高校生だったのだが、前世が神族であったがためにある日突然なってしまった。最初の頃は多少なり戸惑っていたが、前世の記憶が戻った今では神族としての姿のほうがしっくりしている。もちろん、高校を卒業したわけではないので学業はまだちゃんとしている。
「ん、美鈴は友達と一週間お泊りで。レナは健康診断に一週間は帰れないって言ってた」
美欧が出かけている間に二人とも急な用事に慌てて出掛けて行ったので、その間出掛けていた美欧が知らなくても仕方ないだろう。いつもは四人一緒でいるからこうして二人だけになるのは珍しい。
「じゃあ・・・・・、今、家にいるのって私と天都だけ?」
美欧はジーと期待こめた視線でこちらを見つめてきた。
「うん・・・まあ、そうだけど」
「じゃ、今から二人で行こっ!ねっ、行こうよ~」
そう答えると美欧はこちらの手を握って揺すりながら目を輝かせた。
「あー、うん、そうだなー・・・。たまにはいいか」
いつもはみんなで行動する事が多いからこんな機会は滅多にない。それに美欧も期待してることだし、せっかくの機会だから行ってあげても構わないだろう。って・・・、こういうのって今から行けるものだろうか?
「わ~い、やった~。天都とお泊りデートだにゃ~」
考え込むこちらに美欧は嬉しそうにまた抱きついてくるのだった。

更新日:2012-09-16 00:37:20

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