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三賢者物語 フェイレン物語前夜 第五章

 - 決着 -


 試合の場に、二人が立ち並ぶ。

 決勝まで勝ち進んできたのは、槍使いのフェイレンと
棍使いのハーンである。


 ――棍主ハーン


 その力量が非凡であることは、彼が扱う武器からして知れるというモノだ。


 今回の、選定の儀に追加された勝利規定からすると
棍は著しく不利な武器といえたが、ハーンはその不利をモノともせず
勝ち進んできたからだ。

 達人とは、立ち居振る舞いからして違うモノ。
 ハーンには同年代の若者にはない、身に纏う雰囲気からして既に
相手を制するところがあった。

 しかし、フェイレンもさるもの。
 ハーンから、静かに発されている闘気を、柳のように涼やかに受け流している。



 ―――双方、武器を構えると、試合開始の銅鑼がなった。



 試合開始と同時に、両雄は激突する。

 正面から素早い突きを放つハーン。
 それをかわしながら、フェイレンは槍を横薙ぎに払う。

 右から左に弧を描いて打ち込まれた一撃を、ハーンは身を引いてかわすと同時に
フェイレンの左側面に打ち込む。


「やりますね」
「貴方こそ」


 激しい攻防の後、磁石が反発するかのように
両者はパッと離れる。


 初撃で、互いの力量が近接してることを知ったハーンは
遠慮は無用とばかりに、踏み込みと同時に素早い連撃を
繰り出してきた。


 上段への打ち下ろし、中段への突き、下段への払いの三連撃である。


 フェイレンは、二撃までをかわし、最後の払いを防御すると同時に
即座に切り返すが、立てた棍で受け止められる。


 双方の武器のリーチはほぼ互角。


 速さではフェイレンに分があるが、一撃一撃の重さではハーンの方に分がある。
長引けば、不利になるのはフェイレンの方だといえるだろう。


 ハーンは棍を構えなおす。
 その構えには、およそ隙がない。


 後手に回っていては埒が明かない、と判断したフェイレンは攻勢に転じた。
 素早い突きを繰り出しながら、一気呵成に攻めたてる。

 その勢いは瀑布の如きであった。

 凌ぎきれず、後方に飛び退くハーンを逃がすまいと
豹の如き俊敏な動きで、追いすがるフェイレン。


 しかし、それこそがハーンの思惑通りの展開だった。


 いったん後退すると見せかけて、フェイレンの前進に合わせるかの如く
恐るべき速さで懐に踏み込み、フェイレンの脇腹を打つ。

 咄嗟に勢いを殺して身を引いてみたものの、かわしきれる筈もなく
一撃を食らってしまっていた。


「ッ!!」


 思わず、呻きそうになる程のダメージを受けたフェイレンに
とどめとばかりに鋭い突きが見舞われた!


 しかし、猫の如き柔軟さで、後転しながらこれをかわすフェイレン。



 ―― 一連の凄まじい攻防に、沸き立つ観客の上げる声が天を突くように高まる。



 フェイレンは、さらに後方に大きく飛び退き着地するが
脇腹の痛みが効いてるのか、その表情には苦痛の色が混じっていた。

更新日:2012-09-07 22:55:00

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三賢者物語 フェイレン物語前夜