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「何?どちら様?一夜子のオトモダチ?
ソレなら俺のトモダチでもあるね?
ぢゃ~親友、一夜子は俺が送るからダイジョブだよ。
コーヒー飲んで日頃の疲れを癒してから帰ンなさい」

 畳み掛けるなり、ポンポンと男の肩を叩き、その儘 店へと連行。
店内に押し込むとヒラヒラと手を振り、自分はサッサと一夜子の傍らに舞い戻る。
ポカ~ンと口を開ける一夜子は当麻を見上げ、言葉も無い。

「…」
「えっと~…俺、邪魔だった?」

 男に言い返す間も与えずに他所へ追いやった割には、今更な話。
コレに一夜子は苦笑する。

「ううん。あの人、ココ最近ご贔屓にしてくれてる お客様。
たまに、居合わせると ああして声を掛けて来るの。悪い人じゃないのよ」
「ふ~ん。…送らせてンの?」
「まさか。いつも“他のスタッフと帰りますから”って、お断りしてるの」
「そっか。今日は…早いのな?」

 帰りの早さを問えば、一夜子は“あ!”と声を上げる。

「当麻も お店に来てくれたの?
私は帰るけど、黒木チャンが まだオーダー取ってるから顔を出して上げてよ。
最近 当麻が来ないモンだから、つまらないんですって。じゃぁ」

 一夜子は小さく手を振り、踵を返す。

 目的は一夜子である当麻も又、このまま引き下がる訳にはいかない。
足を休めない一夜子の傍らに並ぶと、当麻は腰を折っては伺う。

「ぉ、送るよ。近くに車、停めてあるから!」
「さっきの人と同じ事 言ってる。大丈夫よ、今日は まだバスも走ってるから」
「ぢゃ、お茶でも!」
「だから、飲んで行ってちょうだいって言ってるのに」
「ンぢゃ、ドライブ!」
「…何処へ行きたいって言うのよ?他に誘う人がいるでしょ?」
「俺は一夜子と話がしたい。ソレだけだ」


  ピタリ。


 漸く一夜子の足が止まる。


〔そんな事を言って、私に何を話したいのか…
三浦サンとの事を、そんなに自慢したいのなら、何て意地悪な人だろう…〕

「なぁに?ココで聞くわ」

 あくまで場所を改めるつもりは無い。
久し振りに見る一夜子の徹底抗戦は、出会った当初と変わらない。
時間をかけて縮めて来た折角の距離が、クリスマスを境にリセットされて
しまった様だ。
 コレに愁色を見せずにはいられない当麻は、一夜子のコートの袖を摘まみ、ボソボソとイジケた子供の様に言う。


「クリスマス…仕切り直したいンだ…」


 既に12月28日。街には来年の干支ポスターが張り巡らされている。
過ぎ去ったクリスマスの残り火は皆無。

「何で… 今更…」

「“今更”でも、一夜子と過ごせないンぢゃ、俺のクリスマスは終わンねぇし…」

 一夜子の入れた、ホワイトベルベットが飲めなかった事が悔やまれる。
帰りを送れなかった事、クリスマスらしさの1つも無かった事、ソレ等 全てが悔やまれる。その思いが伝わるのか、一夜子は困惑に顔を伏せる。

〔期待なんか…してない…。私は当麻の途中経過に過ぎない。
だから、期待なんかしない…最初から何も無い…当麻は誰にでも優しいだけ〕


「何処へ、連れてってくれるの?」


〔単なる好奇心。クリスマスが どんなものなのか、知りたいだけ〕

 幾日も過ぎたクリスマス。
然し、仕切り直すを口実に、コレは互いに必要な言い訳。

更新日:2012-11-08 22:06:52

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