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一夜の恋。 3



 時刻は18時。
夕闇の中、三浦に先導されて やって来たのはcafe free&high。

(つか、ヤベェェェェェ!!!)

 ヤバイのは無理も無い。
勤務中の一夜子の前で、他の女との2ショットなど勘弁 願いたい所。
当麻は狼狽を隠せずに、三浦を見やる。

「ココ!? ココなのか!?」
「はい!小宮サン、“free&high”好きでしょう?」
「イ、ヤ!勿論スキだが、混んでるンぢゃないかな~クリスマスだしなぁ~」
「大丈夫ですよ、私、予約 入れておきましたから♪」

 ピースを作ってのアプローチは完璧だ。当麻は固唾を呑む。

「クリスマスプランがあったから、私、町田サンに予約お願いしたんです♪」
「ひよ、、町田サンに!?」
「はい♪
ちゃんと町田サン指名しておきましたから、小宮サンの大好きなコーヒー
飲めますよ♪ さ!行きましょう!」

 三浦に悪意は無い。全く無い。
ソレ所か、当麻を喜ばせたいばかりの好意一色。
コレが返って、当麻の首を絞めているとは、三浦は思いもしないだろう。


  カランコロン…


 ドアが開けば奏でられるカウベルと共に、いつも通りの笑顔で一夜子が
出迎える。

「いらっしゃいませ。三浦サン、小宮サン、お待ちしておりました」

 店内はクリスマスに合わせた飾り付けに余念が無い。
コレも、スタッフ等が手分けをして準備を整えた賜物だ。
セッティングも滞り無く済んでいるテーブルに2人を通し、一夜子は丁寧に腰を折る。

「ご予約、ありがとうございます。
只今、前菜の準備をしております。お先に、食前酒は如何ですか?」

 普段には無いカフェサービスに新鮮さはあるものの、至って変わりない一夜子の涼しい物腰に、当麻は面食らってならない。

(コレ迄の女なら、間違いなくココでビンタだ、ビンタ!)

 まさか殴られたい訳では無いが、コレが一夜子のプロ根性だと思えば頭が下がる。
然し、何一つ思う所が無さそうだから、脱力せずにはいられない。
スッカリ放心状態の当麻を怪訝しつつも、三浦は上機嫌に促す。

「小宮サン、食前酒はチェリー酒ですって、美味しそうだから頂きましょうよ♪」
「はッ!? ぁ、あぁ、頂きましょう!」

 さすれば早速 準備される小さなグラスには、淡く、ソレでいて紅のチェリー酒。
店内の明かりを乱反射すれば、ピンクトパーズの如く輝きを放つ乙女カラー。
コレにはテンションも鰻上りの三浦は、上機嫌にグラスを掲げる。

「乾杯しましょう、小宮サン♪」
「ぁ、ああ、乾杯」
「乾杯!メリークリスマス♪」

 出来上がった前菜の配膳をするも、黙っている事も無かろう。
気遣う一夜子は、笑顔で2人を伺う。

「オルゴールは如何でしたか?」

 当麻からすれば一気に核心。然し 三浦は、身を乗り出す剣幕で答える。

更新日:2012-11-08 22:50:52

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