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café free&high のクリスマスプランの予約席は完売。
一夜子はオープンから駆り出され、コーヒーを振る舞っている。
予約表の確認を逐一 行いながらの持て成しは何かと気遣ってならない中、
黒木が気難しい顔をして、カウンターの一夜子に駆け寄る。
「センパ~イ、予約表にある“三浦”って、最近ウチに来だした女の人?」
「黒木チャン、お客様の話をする時は、名前に“様”を付けるって、店長に言われてるでしょ?」
「三浦サマ三浦サマ。ね?そ~デショ?」
黒木の口振りからいって反省している様子は無いから、一夜子は毎度 飽きれるばかりだ。
然し、黒木はコレでも一夜子と同じ、カフェ経営を目指すティーソムリエ見習い。
根気良く指導していきたい所、一夜子は食器を磨く手を休めず、コクリと頷く。
「そうです。三浦様。今ではココの常連サンです」
「小宮ッチの紹介でしたっけ?」
「…小宮様の御紹介ですっ」
早速、敬称を付けるのを忘れる黒木に、学習能力は期待できない様だ。
ソレでも、アレコレを勘繰るのが好きなのか、黒木は一層 険しい表情を見せる。
「2人席キープって、連れは もしや、小宮ンですか?」
今度は“コミヤン”と来るから、発想だけは見事としか言いようがない。
黒木を“面白いキャラだ”と思える程、一夜子は柔軟では無いから、仕舞いには頭を抱え出す。ソレを他所に、黒木は肩を落として溜息を吐く。
「マッチぃのケツ追っかけてないコミリン何て、トーマスとしては失格ってカンジ」
「・・・」
四方山、何を言いたいのか解からない。
いえども、一夜子を出汁にして当麻に たかっていた黒木としては、三浦とのカップリングでは採算が取れないのが不満の理由。
ブツブツと文句を言いながら、持ち場へと戻って行く。
一夜子は一息つくと、気を入れ替えて食器を磨く。
お客様には水垢1つ無い奇麗な食器で お茶を振る舞うのが、カフェの持て成しだ。
艶やかに磨き上げられたカップに琥珀のコーヒーをドリップしながら、一夜子は力なく目を細める。
『勇気だして良かったわ!
あんなに乗り気になってくれるんだモン♪』
〔当麻は今頃 三浦サンとオルゴールを見てる。
当麻、オルゴール好きだから、すごく楽しんでるんだろうな…〕
『同じ部所でもね、小宮サンは特別エリートだから…』
〔当麻はエリート中のエリート。
そんな彼には やっぱり、オシャレなワンピースを着た女性が似合うと思う〕
『もしかして、小宮サンも私の事、気にかけてくれてたのかな!?』
「…」
ピタリと手が止まる。カップには丁度 良い量に注がれるコーヒー。
体が覚えた条件反射は“魂ココに非ず”でも、確かな仕事をしてくれる。
〔大丈夫…〕
『クリスマス、一緒に過ごそ』
〔だから…大丈夫…〕
信じれば期待するのが常。
to be continue.
writter:Kimi Sakato
更新日:2012-10-23 15:35:08