- 2 / 65 ページ
一夜の恋。 1
ココは、都心の一等地に構えるカフェレストラン。
スタイリッシュな店が建ち並ぶ中、石造りの外装と、スカイブルーの扉が目を引く、
その名も“cafe free & high”。
イギリスでは、最も空が高く、開放感を得られる湖水地方をイメージしての命名。
店内はソレ程 広くは無いが、インテリアは家庭的な雰囲気の中にも、イギリス18世紀を思わせるジョージアン様式を取り入れた、落ち着きと気品のスペース。
日本様式では中々見られない繊細な彫刻とカブリオールは、一見の価値があるだろう。
ゴシック調の壁掛け時計を見やれば、時刻は20時。
週末を迎える客層は、仕事帰りのカップルばかりの中、カウンターテーブルに頬杖を着く1人の男が声を唸らせる。
「一夜子ぉ、俺らイイ加減 付き合いませんか?」
男も又、会社帰りだろう。
ダークグレーの細身のスーツをファッショナブルに着こなしてはいるものの、襟元はスッカリ緩んでいるから完全なる寛ぎモード。
然し、実に冴えない。
この台詞、何処に向けられているかと言えば、カウンター内のウエイトレスだ。
黒いレースのブラウスの胸元に付けられた名札には“町田一夜子”と書かれている。
一夜子は男に一瞥を向けるでも無く、挽いたばかりのコーヒー豆をフィルターに移し替え、沸騰した お湯を注ぎ込む。
コポコポと、耳に優しい音と共に漂うコーヒーの香り。
「オイ、シカトかよ?」
翼々 見やれば この男、衆目を集める程の端整な顔立ち。
店内の女性客が、瞥々と目を向け続けるのが その証拠。
その眉目秀麗な顔が俄かに顰められ、口吻は苛立ちを含めるから、一夜子は漸くと口を開くのだ。
「…小宮サン、私、仕事中なの。見て分かりません?」
「ぅわ、チラ見。然も苗字で呼ぶんだ、町田サン。違和感あるの気付いてる?」
サービス業である以上、愛想を忘れてはならない所のウエイトレスだが、場を弁えずに話しかけて来る この男には脱力させられる。
「コーヒー落としている所なの。目を離せないの。
今、大事な最終段階なの。当麻、ちょっと黙ってて」
「お前ホント好きだな、地味なコト。適当に淹れてイイぜ、どうせ俺が飲むンだ」
随分と勝手な事を言う、この男の名を“小宮当麻”。
当麻の言い分に、一夜子は眉を吊り上げる。
「誰が飲もうと、私はコーヒーを美味しく淹れるの!
ソレが私の生き甲斐なの!」
一夜子は“カフェ店員”と言う職務に誇りを持っている。
手を抜くなど、度台 有り得ない話。
スッカリ臍を曲げる一夜子の口は、絵に描いた様にへの字に曲がり、フイッと顔を背ける。
(あ~あ~また怒らせちったよ…)
“また”と言うからには、再三再四 一夜子の地雷を踏んでいるのだろう。
当麻は眉を困らせ、こげ茶色の前髪を、左手でワシャワシャと揉む。
ココは、都心の一等地に構えるカフェレストラン。
スタイリッシュな店が建ち並ぶ中、石造りの外装と、スカイブルーの扉が目を引く、
その名も“cafe free & high”。
イギリスでは、最も空が高く、開放感を得られる湖水地方をイメージしての命名。
店内はソレ程 広くは無いが、インテリアは家庭的な雰囲気の中にも、イギリス18世紀を思わせるジョージアン様式を取り入れた、落ち着きと気品のスペース。
日本様式では中々見られない繊細な彫刻とカブリオールは、一見の価値があるだろう。
ゴシック調の壁掛け時計を見やれば、時刻は20時。
週末を迎える客層は、仕事帰りのカップルばかりの中、カウンターテーブルに頬杖を着く1人の男が声を唸らせる。
「一夜子ぉ、俺らイイ加減 付き合いませんか?」
男も又、会社帰りだろう。
ダークグレーの細身のスーツをファッショナブルに着こなしてはいるものの、襟元はスッカリ緩んでいるから完全なる寛ぎモード。
然し、実に冴えない。
この台詞、何処に向けられているかと言えば、カウンター内のウエイトレスだ。
黒いレースのブラウスの胸元に付けられた名札には“町田一夜子”と書かれている。
一夜子は男に一瞥を向けるでも無く、挽いたばかりのコーヒー豆をフィルターに移し替え、沸騰した お湯を注ぎ込む。
コポコポと、耳に優しい音と共に漂うコーヒーの香り。
「オイ、シカトかよ?」
翼々 見やれば この男、衆目を集める程の端整な顔立ち。
店内の女性客が、瞥々と目を向け続けるのが その証拠。
その眉目秀麗な顔が俄かに顰められ、口吻は苛立ちを含めるから、一夜子は漸くと口を開くのだ。
「…小宮サン、私、仕事中なの。見て分かりません?」
「ぅわ、チラ見。然も苗字で呼ぶんだ、町田サン。違和感あるの気付いてる?」
サービス業である以上、愛想を忘れてはならない所のウエイトレスだが、場を弁えずに話しかけて来る この男には脱力させられる。
「コーヒー落としている所なの。目を離せないの。
今、大事な最終段階なの。当麻、ちょっと黙ってて」
「お前ホント好きだな、地味なコト。適当に淹れてイイぜ、どうせ俺が飲むンだ」
随分と勝手な事を言う、この男の名を“小宮当麻”。
当麻の言い分に、一夜子は眉を吊り上げる。
「誰が飲もうと、私はコーヒーを美味しく淹れるの!
ソレが私の生き甲斐なの!」
一夜子は“カフェ店員”と言う職務に誇りを持っている。
手を抜くなど、度台 有り得ない話。
スッカリ臍を曲げる一夜子の口は、絵に描いた様にへの字に曲がり、フイッと顔を背ける。
(あ~あ~また怒らせちったよ…)
“また”と言うからには、再三再四 一夜子の地雷を踏んでいるのだろう。
当麻は眉を困らせ、こげ茶色の前髪を、左手でワシャワシャと揉む。
更新日:2012-11-04 04:22:43