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一夜の恋。 2



 その後、コレと言って2人の関係が進展する事は無い。
ただ、当麻は相変わらずカフェに通う。
そして 一夜子は、当麻の為のコーヒーを淹れ、さり気ないサービス。
ソレでもオルゴールが繋ぐ縁か、途切れては巻き返す様に、平凡な日常が続くのだ。


  カランコロン…


 cafe free&high のドアが鳴る。

「いらっしゃいませ」

 カウンター担当の一夜子がニコリと微笑み、迎え入れるのは、この時刻には常連の当麻。カウンター席は定位置に腰を下ろすと、急かす様にオーダーする。

「外、寒すぎッ、ホットコーヒーっ」
「かしこまりました」

 やはり仕事中は一線を置く様に、接客丁寧な一夜子の対応。
ソレに対して、当麻は愚痴る様に言うのだ。

「なぁ一夜子ぉ、俺らイイ加減 付き合いませんか?」

 コレも相変わらず。然し、言いたくなるも無理は無し。
箱根ドライブは好感触であったにも関わらず、一夜子は頑として当麻の告白を受け入れようとしない。
理由は以前、アパートで暑苦しい主張と共に聞きはしたが、好い加減ソレは払拭して貰いたい所。然し、一夜子の表情は涼しい。

「小宮サン、私、仕事中なのです」
「町田サン、僕、仕事で疲労困憊なんです。癒して下さい」
「はい、どうぞ」
「・・・」

 トンッ、とカウンターテーブルに置かれるのはホットコーヒー。
コーヒーに文句は無いが、当麻が最も欲っする所は一夜子その物である事は言う迄も無い。当麻は渋々と、日本茶を飲む様にズズッとコーヒーを啜る。

「やっぱ美味い。一夜子のコーヒー」
「ありがとうございます」
「俺、一夜子のコーヒーしか飲めねぇ体なんだ。出来れば毎朝 淹れて欲しい」
「…当麻、そんな冗談ばっかり」
「冗談じゃねぇよ」
「じゃぁ酔ってるのね」
「酔ってねぇよ」
「だって、少しアルコール臭い」
「え゛ッ」

 どうやら図星。
コーヒーや茶の香りを嗅ぎ分ける嗅覚を持つ一夜子には、僅かなアルコール臭とてキャッチ出来るのだ。

(酒臭いプロポーズぢゃ、信憑性に欠けるよなぁ…)

 “まだ付き合ってもいないのだが”と心中 自嘲しつつ、当麻は苦笑する。

「会社の付き合いでね」
「お付き合いも仕事の内だからね、お疲れ様。ソレにしても早いのね。
サラリーマンの お酒の席って、終電ギリギリなのかと思ってた」

 時刻は20時と、いつも通りの頃合だ。
酔い覚ましに訪れるにしては、大分 早い時刻。
この辺、一々 気が回る一夜子には お手上げな当麻は、カウンターに頬杖を付き、一息を着く。

更新日:2012-11-08 22:49:52

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