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第2話

ある日の3時間目。英文を必死でノートにとっていると、突然の放送。

《2年5組の菅原奏歌さん、至急保健室に来てください》

『え・・・なんで私?』
「菅原さん、行って来なさい?」
『あ・・・はい』

保健室に来ると、どこか暗い雰囲気の早川が椅子に座っていた。

「おー・・・悪いな」

元気なさげに私のほうを向いた早川の腕には、ぐるぐると包帯が巻かれている。

『えっ・・・どーしたの、その腕!?』
「あ、菅原さん!話は後。さ、早く準備して!」
『・・・準備?』

私と早川はそのまま車に乗せられて、すぐ近くの病院に来た。
早川と先生は診察室へ。私は1人、待合室で待っていた。すると、先生だけが戻って来た。

『先生・・・あの・・・何があったんですか?』
「体育の授業中にね?得点板が倒れてきて、それが肩に当たって・・・複雑骨折だそうよ。バスケがまたできるようになる保証はないって」

先生の深刻な顔が、なおさら現実なんだと訴えてくる。

『そん・・・な・・・』
「大丈夫。まだそうと決まった訳じゃないわ。時間はかかるだろうけど、きっとできるようになる」

・・・嘘だ。そんなの、何かの冗談に決まってる。
バスケ中の早川は人の何倍もかがやいてて、誰よりも真剣で、シュート決めたらすっごい笑顔になって、負けたらもっと強くなろうって頑張れる人で・・・。汗だくになりながら、ボールを追いかけ続ける。そんな一生懸命な姿を見るの、大好きだったのに・・・それがもう、見えなくなるかもしれないの?

『・・・ダメです』
「え?」
『そんなのダメです。早川にとってバスケは・・・何にも変えられない、すごーく大事な存在で、プレーする時の早川の目・・・すっごいキラキラしてて真っ直ぐなんです。早川がバスケを失ったら、早川の心はきっと死んじゃう。心から笑えなくなるかもしれない。それぐらいバスケは、大事なものなんです・・・!』

涙がぽたっと落ちる。
すると後ろから、ぽんと頭を触れられた。振り返ると、そこには微笑む早川の姿。

「大丈夫。ぜってー出来なくなったりしない。てか、させねーし。だから、もう泣くな」

優しい笑顔。
ちゃんと心から笑ってる?

『・・・ごめん。早川の方が怖いんだよんね。だいじょぶ、涙なんてすぐ止まる・・・』

笑顔を作ろうとする私を、無傷な方の手で抱き寄せた。

『ちょ・・・早川っ・・・』
「ありがとな、俺のために泣いてくれて」
『・・・!』
「俺さ、いつもお前の言葉に励まされてんの。気付いてないだろーけど。いつも俺がバスケしてる時、見ててくれたろ?失敗しても、顔色変えずに夢中で見てくれてた。・・・だから、続けられたんだ。この子をもっと喜ばせるために、頑張ろうって」

先生が見てるのも気にせずに、私を離さない。
かといってドキドキしすぎて、自ら離れるような余裕なんてない。それに・・・離れたくないのが本音。

『・・・早川・・・』
「・・・・・・俺さ、菅原の事・・・」
「早川さーん。早川湊さーん」

看護師さんの呼ぶ声に俊敏に反応して、私たちはバッと離れた。

「はっ・・・はい!」

呼ばれた方へ慌てて走る早川の顔は、リンゴみたいに真っ赤だった。

「本当にいい感じなのねー・・・あなたたち」
『いや・・・そんな事は・・・』
「・・・でも、これなら平気そうね。早川くんの心が折れそうになっても」
『・・・?』

私が疑問を持つと、先生は思い出したみたいにふふっと笑った。

「早川くん、怪我して保健室に来た時暗い顔してたんだけどね?1人じゃ不安だろうから友達につきそってもらおうと思うんだけど誰がいい?って聞いたの。そしたら早川くん、顔真っ赤にし菅原って言ったのよ?」

嬉しい・・・すっごく。でも、若干信じられない。だって友達でも同じクラスの子でもなく、私を選んだ?そんな夢みたいな話・・・普通ならありえない。そもそも私、クラス違うし・・・。

「・・・先生、それ言わないでって言いましたよね?」

声の出もとは早川だった。
照れくさそうな顔で、先生の前に立つ。

「あら、そーだった?でもいいじゃない。菅原さん、喜んでくれたわよ?」
『や・・・あの・・・っと・・・』

私の体温、急上昇。
早川が私の顔をみて、私は更に赤くなる。

「菅原・・・その顔、反則・・・」
『そーゆー自分だって真っ赤じゃん・・・』
「・・・」

自分で気付いてなかったなんて、逆にすごいと思うけどな。
さすが鈍感王子。

更新日:2012-08-08 21:02:11

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