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 こっちだって、早く来いよ!

 笑顔と共に差し出される手を、俺は掴む。
 温かい、手。引き上げられて見る、スラムの丘からの朝日は、目も開けられない程の眩しさだった。

 な、きれいだろ?!

 綺麗も何も、光が強すぎて見えない。
 眩い光が綺麗ではない筈がないという、こいつの考えは、俺には真似できない。
 どうしてこんなにも、信じられるのだろう。己も、己の想いも。

 ああ、綺麗だな。

 確証のない事に頷いたのは、これが初めてだったと思う。
 頷いてから、ああ、本当に綺麗だ、と想う。

 眩い朝日も、こいつの心も、差し出された手も。

 俺にも、無条件に信じられるものがあるのだと、この時まで、思いもしていなかった。

更新日:2012-08-01 00:42:27

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