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歯医者さんてえのには、なるたけ世話になりたくない

 この薮井クン、どこでどう間違ったか、長じて歯科医院を開業いたしまして・・・

 えー、歯医者さんてえのには、なるたけ世話になりたくないですな。

 あたしなんぞは、あのジージーという音を聞くだけで、冷や汗がドー、目がクラクラ、てんで立っていらンないくらいで・・・

 まあ、歯医者が三度の飯より好きだなんて人はあんまりいません。

 ンなわけで、近ごろは歯医者のほうも心得たもんで、BGMてんですか、眠くなるような音楽流したり、可愛いアシスタントに洒落たユニフォーム着せて近くにはべらせたりして、痛がらせない工夫をしていますな。

(ドナウ川のさざなみのBGMをハミングして)
可愛いアシスタント「いらっしゃいませ。なんにいたしましょうか。え?神経抜きたい?はい、かしこまりました。センセー、神経一本お願いしまーす」

 なんて、ナイトクラブと間違えちゃうくらいで。

 中にはみかけに無頓着な先生がいます。

 待合室に入るってえと、椅子はバネが壊れてへっこんだまんま、スリッパは赤いの、黒いの、茶色いの、と賑やかなのはいいんだが、はくってえとジトーッ、ベターッ、水虫が喜びそうなのばかり。

 棚においてある週刊誌なんぞはみんな表紙がとれていまして、「ロッテ、日本一!」なんて記事が載っている。ロッテてのは日本一になったことありましたかな?
 
 診療室には旧式の機械が一台あるだけでして、上下に動かすには、足でこがなくちゃいけない。

 ンでもって、患者さんは一日五人と診ないんで。ええ、百人も診ると治療が雑になるからてんで・・・

 百人診るには百台の診療台グルグル回わさなけりゃ追いつかない。まるで回転寿司で・・・雑になるのはあたりまえですな。

 まあ、こういう旧式な先生は儲からない。儲からないから設備は旧式のまんま。待合室は掘っ立て小屋同然。夏場になるてーと蚊やハエが遊びにやってくる。

「おーい、ばーさん、蚊取り線香もってこい!」

 渋団扇バタバタやりながら怒鳴るシーンがありましたな。志村喬の「酔いどれ天使」。古い映画ファンの方はご存知でしょうけど、アル中のうえにへそ曲がりのセンセーでして、いつも無精ひげ生やして、帽子はグシャグシャ、背広はヨレヨレ。

 腕は抜群にいいんだけど、上流階級の患者さんは不潔だてんで寄りつきません。やってくるのは、噺家とか、えー、マルボーの方々で・・・映画じゃ三船敏郎が演ってましたな・・・マルボーを・・・

 あたしのかかりつけのセンセーがちょうどこんな具合で、見かけはよくないが腕はいい、しかも他の歯医者に比べたら診療費がべらぼうに安い、人間国宝にしたいくらいのセンセーです。

 ここで名前を出しちゃうってえと、どっと患者さんがふえてあたしの番がこなくなっちゃうから言いませんが、是非にという方がいらしたら、あとで楽屋のほうに来てください。そーっとお教えしますから。

 ええ、お金はいりませんよ、お金は。ええ、しつこいようですが、お金はいりません・・・お酒ならいくらでも頂きます。

更新日:2009-02-28 14:40:10

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